『雪沼とその周辺』堀江敏幸の感想

小説

『雪沼とその周辺』 堀江敏幸著/新潮文庫

・内容

その山あいの静かな町、雪沼で、ボウリング場、フランス料理屋、レコード店、製函工場、書道教室などを営む人びと。日々の仕事と真摯に向きあい、暮らしを紡いでゆくさま、その人生の語られずにきた甘苦を、細密な筆づかいで綴る最新短篇集。川端康成文学賞受賞作「スタンス・ドット」ほか、雪沼連作全七篇を収録。

山あいの静かな町・雪沼で、ボウリング場、フランス料理屋、レコード店などを営む人々の日常や、その人生の語られずにきた甘苦を綿密な筆づかいで描く連作短編集。川端康成文学賞受賞作「スタンス・ドット」ほか6編を収録。

・感想

本作の登場人物は、いずれも老いを隠せなくなってきた人物ばかりである。長い人生を送ってきた中で、辛い過去を経験し哀愁を感じさせる人物ばかりなのである。かといって、みすぼらしいとか、読んでいて哀しくなってくるというわけでもない。彼らは過去を抱えながらも一様に前に進もうと奮闘しているのである。

その舞台は都会ではなく、その逆に都会から忘れられていそうな、スキー場も潰れてしまったような、人々が過労を極めた一番目の人生を終えた後二番目の人生の舞台として選ばれるのがこの雪沼である。自然に恵まれ、人々の優しさにも恵まれた人情味ある町といえばいいと思う。

そのような町にやって来た、もしくは定住してきた彼らの性格がひねくれているはずもなく、見習うべきともいえるような穏和さがこの作品の最大の魅力とも言える。

そのような環境から言えば当然かも知れないが、本作の中ではこれといった事件が起きるわけではない。日常の一ページといった風景、設定の話であり、最近多い都会の派手さ壮大さを売りにしている小説から見れば、静かであり穏やかであり、それを通り越して地味だとも思える。このような小説は時として、「何を言いたいのか分からない」、「意味不明」、「だらだらと続いて全く面白くない」などと中傷されてしまうのが、常である。それが、本作ではそんなこともなくただ日常を楽しめるというのが、読者からすれば素直に嬉しく同時に氏の筆力を感じさせるものとなっている。

また、一文一文がとても長いということが特徴的だ。

第40回谷崎潤一郎賞受賞
第8回木山捷平文学賞受賞
第29回川端康成文学賞受賞

・形式

小説、連作短篇

・あらすじ

堀江敏幸 『雪沼とその周辺』 | 新潮社

小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小説。

・収録話数

スタンス・ドット

イラクサの庭

河岸段丘

送り火

レンガを積む

ピラニア

緩斜面

・初出

スタンス・ドット、新潮、2002年1月号

・刊行情報

雪沼とその周辺(新潮社)

2003年11月

雪沼とその周辺(新潮文庫)

2007年7月30日

・受賞歴、ランキング

第40回谷崎潤一郎賞(雪沼とその周辺、中央公論、2004年11月号)

池澤夏樹

井上ひさし

河野多恵子

筒井康隆

丸谷才一

第8回木山捷平文学賞(雪沼とその周辺)

秋山駿

川村湊

三浦哲郎

第29回川端康成文学賞(スタンス・ドット、新潮、2003年6月号)

秋山駿

井上ひさし

小川国夫

津島佑子

村田喜代子

・読了日

2008年1月10日

・読了媒体

雪沼とその周辺(新潮文庫)