『ALONE TOGETHER』本多孝好の感想

小説

『ALONE TOGETHER』 本多孝好著/双葉文庫

・内容

風向きが変わった。僕の頬を湿った風が撫でていった。風は梔子の香りを乗せていた…。二つの波長が共鳴するときに生まれる静かな組曲を、端正な筆致で綴る。「ある女性を守って欲しいのです」三年前に医大を辞めた「僕」に、脳神経学の教授が切り出した、突然の頼み。「女性といってもその子はまだ十四歳…。私が殺した女性の娘さんです」二つの波長が共鳴するときに生まれる、その静かな物語。『MISSING』に続く、瑞々しい感性に溢れた著者初の長編小説。

・感想

本作の主人公はある一つの特別な能力を持っている。それは他人とシンクロする能力ーと、言ってもわかりにくいので具体的に言うと、他人の心の奥底に眠る「本音」を語らせる能力である。主人公はこの能力を扱えていない。無意識に自分の波長が他人の波長を捉えてしまうのだ。それゆえ主人公は苦しむことになる。そんな彼は普通の学校へ通うことのできなくなった者が通う学校ーアフィニティー学院で働いている。それもあってか、本作で彼の前に現れるのは、いずれも自分の本心を他人に語ろうとしない者ばかりである。父が無職になり母親に父親と共に見捨てられた少女、考えすぎる(頭が良すぎる)ばかりに世の中を、何より自分の将来に関して冷めてしまい凶行に走る少年、母を殺したがる少女。これだけを聞くと、変な子どもたちが出てくる話かと誤解されそうなのだが、そうではない。変なのは、彼らの親なのだ。彼らの親は、彼らを自分の子どもだと見てはいるのだが、それ以上に一人の独立した人間として見てしまっているのである。それゆえ、親は子どもを放っておいてしまう。子どもが屈折した行動をとってしまうのはそのためである。

そんな子どもたちを開かせるのは、厳密に言えば彼の能力ではなく、彼が生徒達と行う「会話」である。彼は一人一人と長い時間をかけ一対一で話をする。それが結果としては、生徒達の救いになっているのである。彼が他の誰よりも子どもと話せ、学院の院長に「何かがある」と、言わせたのは、能力に寄るところも大きいが、なにより先入観を捨てかつ上から目線ではなく子どもたちと向き合ったからではないかと思う。

しかしこう書くと、完全無欠の存在に思える主人公であるが、実は本作で最も弱い人物であると思う。彼は常に心の弱い部分と対面(対決)している。そんな彼だからこそ、子どもたちと接することができたのかもしれない。

子どもの非行が多い昨今、問題提起は様々な面からなされているが、それは事後策ー非行に走った子どもたちをどうやって社会に適応させるかに集中してしまっている。ナイフで人を刺すことを考えた人は間違いなく子どもではない。子どもは明らかに周辺にいる年長者の言動を真似、成長していくのに、大人は非行の原因は、親か子ども自身にあると決めつけてしまう。

本作で著者は少し残酷なことをした。終盤、主人公と一人の女の子が話すところで二人からはかなりの親密さを感じるのだが、その前に主人公は彼女と仲直りをしており主人公と少女が親しくなることを禁止してしまったのだ。これは一読者としては期待せざるをえないシーンだけに寂しく感じる。それに熊谷と主人公が復縁した理由はどうなのだろうか?それが理由として認められるなら、主人公が少女達を拒絶した理由が無くなってしまう気がする。

著者、本多孝好が紡ぎだしたこの世界は、純粋である。そのため登場人物達は自分の思いを直接自らの口から語っている。それは複数の読みとりを許さない、著者の意見を押しつけることになるのかもしれない。しかしそれゆえ読者はこの小説から若い躍動を感じるのである。

・形式

小説、長篇

・あらすじ

「私が殺した女性の、娘さんを守って欲しいのです」。3年前に医大を辞めた僕に、教授が切り出した突然の依頼。それが物語の始まりだった。不登校児を集めた塾でバイトしている僕は、他人の波長にシンクロしてしまう能力を持っており、同時にそれは人を傷つける呪いでもあった。一番近くにいる女性にもそのことを打ち明けられない僕だったが―。人と人はどこまで分かりあえるのか?瑞々しさに満ちた傑作長編小説。

・収録話数

・初出

・刊行情報

ALONE TOGETHER(双葉社)

2000年9月

ALONE TOGETHER(双葉文庫)

2002年10月1日

ALONE TOGETHER(角川文庫)

2013年2月23日

・読了日

2008年4月18日

・読了媒体

ALONE TOGETHER(双葉文庫)