『星空マウス』中園直樹の感想

小説

『星空マウス』 中園直樹著/文芸社

【内容】

防波堤の上には君たちへの友情がある。だからそれより先へ進んではいけない。夕日の海に魅せられて進んではいけない。大人は何も教えてくれない。「生きるため」に「本当に必要なこと」を…。救済と絶望、そして希望の物語。

【著者紹介】

中園直樹

本名・橋本隆史。1974年2月大阪府に生まれ宮崎県で育つ。

【感想】

現在、いじめは社会問題となって、テレビなどのメディアでも連日取り上げられる数ある教育問題のうち、もっとも陰湿で解決の難しいものです。その多くの場合は加害者が一方的に被害者を身体的、精神的に痛めつけるものであるのですが、被害者に原因がある場合もあります。これは、大人にしてみればどちらか一方しかないと思われるかもしれないですが、そんなことはないと思います。

本作で取り上げられるのは、前者の、加害者が一方的に被害者を痛めつける場合です。(一応言うと、多くの場合いじめとはテレビドラマにあるような蹴ったり殴ったりということではなく、無視したり陰口を言い合ったり、私物を隠したりするものでしょう。)著者はいじめをうけていたからか、本作に書かれているのはいじめと戦う人の話でも、戦うこと=正義とされている日本社会における理想のようなものではなく、「どうやって自殺せずに生きていくか」ということの方法を具体的に書いたものです。そのため、実用書で語られているような、中途半端な正義感など無く、実際にいじめをうけている人には自分を救ってくれる一冊になるでしょう。

けれど、本書を物語として見ると、難が残ります。竹杉君の変わり様には戸惑うし、何より主人公の一貫した正義感には辟易させられます、そしてI君は完璧すぎます。ですが、大人がそんないじめに対して盲目であったのは当然とはいえリアルでした。

あえて批判的な言い方をさせてもらうと、今日の日本社会でいじめ問題に対する言及を行えるのは、文部科学省の官僚や、大学教授など、大多数がいじめを直接体験していない、その存在を伝聞でしか知らない人たちです。いや、やはりこの言い方は少し酷かもしれません。現場の教師ですらいじめには気がつけないものです。気がつけたとしても、何もできないか、皆の前で加害者を叱りつけるだけで根本的な解決は難しいです。そんな、現状の中で実体験をもって本作を書いた著者の登場は歓迎すべきものなのかもしれません。

・形式

小説、長篇

・あらすじ

防波堤の上には君たちへの友情がある。だからそれより先へ進んではいけない。夕日の海に魅せられて進んではいけない。大人は何も教えてくれない。「生きるため」に「本当に必要なこと」を…。救済と絶望、そして希望の物語。

・収録話数

・初出

・刊行情報

星空マウス(文芸社)

2003年6月

・読了日

2008年3月1日

・読了媒体

星空マウス(文芸社)