『天使の卵ーエンジェルス・エッグ』村山由佳の感想

小説

『天使の卵ーエンジェルス・エッグ』 村山由佳/集英社文庫

感想

愛する人を失う悲しみと、愛する人から愛されない悲しみはどちらが悲しいのか。

浪人生である歩太は19歳。高校時代の同級生である斎藤夏姫と付き合っているのだが、しだいに心が離れていってしまっているように感じている。そんなときに彼が一目惚れしてしまうのが、8歳年上の精神科医、五堂春妃である。彼は無彩色のラッシュ時の中に、桜色の服を着て佇む彼女に目を奪われてしまうのだ。まさに一輪の花のように想ったことだろう。

女性である著者が、男性の視点から恋愛を書いた作品である。新人賞応募作でそのような困難にあえて挑戦することには頭が下がる思いがするが、男である私が見ると歩太については違和感が残る。それは男性著者が描く女性に対する女性読者の違和感に比べれば非常に些細なものではあるのだろうが。

本作は、恋愛小説としての一つの完成形を示していると言える。誰でも書けるようで誰も書けないような王道を突っ走っている。それは著者の筆力の高さー作品のみずみずしさーを表しているのだが、難点は王道に終始したことか。その心理描写の上手さで類似作とは一線を画してはいるものの、その悪く言うとありきたりで急な展開に戸惑いを隠せない。もちろん新人賞応募作なので、枚数制限などで急な展開にするしかなかったのかもしれない。

それにしても、人間の内面の描写に優れた作品である。それによって登場人物が引き立ち、共感することができる。

第6回小説すばる新人賞受賞。

・形式

小説、長篇、恋愛

・あらすじ

そのひとの横顔はあまりにも清洌で、凛としたたたずまいに満ちていた。19歳の予備校生の“僕”は、8歳年上の精神科医にひと目惚れ。高校時代のガールフレンド夏姫に後ろめたい気持はあったが、“僕”の心はもう誰にも止められない―。第6回「小説すばる」新人賞受賞作品。みずみずしい感性で描かれた純愛小説として選考委員も絶賛した大型新人のデビュー作。

・収録話数

・初出

小説すばる、1993年12月号

・刊行情報

単行本

天使の卵 エンジェルス・エッグ、1994年1月

文庫本

天使の卵 エンジェルス・エッグ、1996年6月

・受賞歴、ランキング

第6回小説すばる新人賞

・読了日

2008年2月26日

・読了媒体

天使の卵 エンジェルス・エッグ(集英社文庫)