『半分の月がのぼる空』橋本紡の感想

小説

『半分の月がのぼる空』 橋本紡/電撃文庫

・内容

いきなり入院した。僕にとってはちょっと早い冬休みみたいなもんだ。病院には同い年の里香って子がいた。彼女はわがままだった。まるで王女さまのようだった。でも、そんな里香のわがままは必然だったんだ…。里香は時々、黙り込む。砲台山をじっと見つめていたりする。僕がそばにいても完全無視だ。いつの日か、僕の手は彼女に届くんだろうか?彼女を望む場所につれていってあげられるんだろうか―?第4回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞の橋本紡が贈る期待の新シリーズ第一弾、ついに登場。

・著者紹介

橋本紡
三重県伊勢市出身。第4回電撃ゲーム小説大賞で金賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

・感想

急性肝炎で入院を余儀なくされた主人公、戎崎裕一は変化の乏しい入院生活に退屈し、夜な夜な病院を抜け出しては、看護士の谷崎亜希子に説教をされるという毎日を過ごしていた。そんな中、秋庭里香に出会う。

言い方は悪いが、そんなありきたりな、使い古されたお話である。著者もそれも認め、第1巻のプロローグで「ごく普通の話だ。」と断っている。けれど普通の話だと認めることで、「2人にとっては特別なことだ」ということを強調できているのは、上手い。

舞台は、三重県伊勢市。伊勢神宮で有名な町だ。その町にある、三階建ての小さな病院で裕一は多くの人と出会う。

有名な町だが、近くにある商店街は(実際はそれほどでもないらしいのだが)死にかけていた。著者は、裕一がそんな商店街に寂寥の思いを抱いているシーンを作品の冒頭に持ってくることによって、この物悲しいこの世界に読者を引き込んでいる。

裕一は17歳。情けないというか、はっきりしない。けれど、高校生らしくやるときはやる。よく主人公は万能すぎたり、逆に個性的な脇役達によって目立たないことが多い。特に思春期である場合には、正義感をやたらに振り回しすぎてしまったり、あまり意味もなく暗かったりするのだが、本作の著者は、個性的ながらもその個性が不自然ではない登場人物を多用し、また周辺の環境を裕一に説明させることによって、裕一という主人公を(または、個性を)自然な存在に形成することに成功している。その正直でも、くどすぎない性格に読者は共感することができる。

・収録話数

・初出

・読了日

2008年2月18日

・読了媒体

半分の月がのぼる空(電撃文庫)