『蛇にピアス』金原ひとみの感想

小説

『蛇にピアス』 金原ひとみ著/集英社

【内容】

ピアッシングや刺青などの身体改造を題材に、現代の若者の心に潜む不気味な影と深い悲しみを、大胆な筆致で捉えた問題作である。埋め込んだピアスのサイズを大きくしていきながら、徐々に舌を裂いていくスプリットタン、背中一面に施される刺青、SM的なセックスシーン。迫力に満ちた描写の一方で、それを他人ごとのように冷めた視線で眺めている主人公の姿が印象的だ。第130回芥川賞受賞作品。

顔面にピアスを刺し、龍の刺青を入れたパンク男、アマと知り合った19歳のルイ。アマの二股の舌に興味を抱いたルイは、シバという男の店で、躊躇(ちゅうちょ)なく自分の舌にもピアスを入れる。それを期に、何かに押されるかのように身体改造へとのめり込み、シバとも関係を持つルイ。たが、過去にアマが殴り倒したチンピラの死亡記事を見つけたことで、ルイは言いようのない不安に襲われはじめる。

本書を読み進めるのは、ある意味、苦痛を伴う行為だ。身体改造という自虐的な行動を通じて、肉体の痛み、ひいては精神の痛みを喚起させる筆力に、読み手は圧倒されるに違いない。自らの血を流すことを忌避し、それゆえに他者の痛みに対する想像力を欠落しつつある現代社会において、本書の果たす文学的役割は、特筆に価するものといえよう。弱冠20歳での芥川賞受賞、若者の過激な生態や風俗といった派手な要素に目を奪われがちではあるが、「未来にも、刺青にも、スプリットタンにも、意味なんてない」と言い切るルイの言葉から垣間見えるのは、真正面から文学と向き合おうとする真摯なまでの著者の姿である。

ピアスの拡張にハマっていたルイは、「スプリットタン」という二つに分かれた舌を持つ男アマとの出会いをきっかけとして、舌にピアスを入れる。暗い時代を生きる若者の受難と復活の物語。第130回芥川賞受賞作。

【著者紹介】

金原ひとみ

1983年(昭和58)年8月8日生まれ。東京都出身

【感想】

舌にピアスを刺し、龍の刺青を入れたパンク男、アマと知り合ったルイ。アマの二股の舌に興味を抱いたルイは、シバという男の店で、躊躇なく自分の舌にもピアスを入れる。それを期に、何かに押されるかのように身体改造へとのめり込む、そんな物語です。

本作では、徐々に舌を裂いていくスプリットタン、背中一面に施される刺青、SM的なセックスシーン、そんなものが描かれている。ある意味現代的といえるような(僕はそうは思わないですが)その描写にばかり目がむいてしまいますが、筆者が見てほしいのはそこではないと思いました。

特徴的なのは、主人公のルイが世界を冷ややかな目で見ているということです。冷めているというか、どうなってもいいというような現代の若者に共通している点をルイも兼ね備えています。そんな彼女がアマがいなくなると、人が変わったように慌てだすのです。その差があまりにも大きいんです。

1つ不満な点があったとすれば、それは徐々に舌を裂いていくスプリットタン、背中一面に施される刺青、SM的なセックスシーンではありません。怒ると死ぬまで人を殴り続け相手の歯を折って持ってくるアマ、バイトのせいで帰宅するのが30分遅れるだけで電話をする、まるで子犬のようなアマ。この差がありすぎて同一人物だと到底思えなかったのです。

アマが死んだ後、体重が34キロまで落ちるルイ。死んでしまいそうな痩せ方です。アマの死体を見たからなのか、ショックからなのかはわかりませんが、それまでただの登場人物でしかなかったルイが1人の人間として輝いて見えたのは新鮮な驚きでした。病的ともいえるその状態のほうが、生きているという実感にあふれているのです。そんなことを感じたとき、舌にピアスをさしていたのは、痛みで「生」を確かめようとしていたのではないかと思えました。(読み返してみると実際そのようなことが書いてありました。)

本作は芥川賞にふさわしくないという声がよく聞かれますが、作品の表面にしか過ぎない過激な描写しか見ないでそういうことを言うのはどうかと思います。でも、小説を読んで不快感を感じたらしかたないのかも。また芥川賞は新人賞であるということを知ってもらいたいです。

・好きな一文「きっと、私の未来にも、刺青にも、スプリットタンにも、意味なんてない。」

第27回すばる文学賞受賞
第130回芥川賞受賞

・形式

小説、長篇

・あらすじ

ルイはアマのスプリット・タンに惹かれ、シバさんの指導の下、自分の舌にもピアスを入れる。さらにシバさんに、背中に麒麟と龍の刺青を入れてもらう約束も取り付ける。しかし、アマと喧嘩した暴力団風の男の死亡記事を見てから、ルイに不安が襲い始める。

・収録話数

・初出

すばる、2003年11月号

・受賞歴、ランキング

第27回すばる文学賞(すばる、2003年11月号)

第130回芥川龍之介賞(文藝春秋、2004年3月号)

・読了媒体

蛇にピアス(集英社)

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