『MISSING』本多孝好の感想

小説

『MISSING』 本多孝好著/双葉文庫

・内容

「このミステリーがすごい!2000年版」第10位!第16回小説推理新人賞受賞作「眠りの海」を含む処女短編集。

繊細な視線で描かれた物語が、心の奥底に潜むミステリアスな風景を呼び覚ます・・・。小説推理新人賞受賞作「眠りの海」ほか「祈灯」「蝉の証」など、4作品を収録した処女短編集。

・感想

何とも親近感あふれる小説である。だがテーマはとても重い。生徒と教師の恋、無理心中、自殺、死んだ妹になってしまった姉、孫に金を奪われる祖母、結婚詐欺、不倫、同級生を殺したいという衝動に駆られる高校生。

本作はそんな多くのテーマを扱った5作の短編集である。

そんな5作に共通しているのは「死」というテーマを扱っているという一点である。それもただの死ではない、死をもって自分の存在を他人の心の中に半永久的に残そうとしたがゆえの死なのだ。残された人は、さきに見える自分の全生涯を「自分が殺してしまったのだ(あるいはその人が死んだのに)」という、これ以上にないほど深い負い目と一緒に生きていかなければならない。この晴れることのない罪悪感は、しだいに重みをまして絶対的な存在感となって心の中に君臨するだろう。その前ではどんな言い訳も通用しない。ひれ伏すしかないのだ。そして、自らに死が訪れる瞬間を待つしかない。実際には自分で自分の人生に幕を下ろしてしまう人が多いのだが・・・・。

このテーマは決して真新しいものではない。かつては、夏目漱石の「こころ」のK、ライトノベルでも、「文学少女シリーズ」で朝倉美羽の例がある。

私は本多孝好著の小説を読むのは初めてだが、この、本多孝好という作家は正当な評価を受けていないのではないかと思った。文学賞の選考委員は、作品の内容ゆえに、夏目漱石などの文豪と比べてしまうのだろう。だが、いかんせん相手が悪すぎる。確かに、それらのテーマを直接伝えてしまっていることは作品を浅くしてしまっている(とはいえ十分な深さを持っている)のだが、より心の奥に語りかけてくる。

ただ、これだけの重いテーマなのにもかかわらず読後は非常に爽やかだ。皆が心情を素直に吐き出しているからに違いないのだが、なにより小説の世界と読者とが近いのだ。死はそんなに軽いものではないと言われると否定できないのも事実ではあるが、人間の弱みをを鋭くついた作品であるということも事実である。

それにしても登場人物を殺しすぎではないか?「実際には自分で自分の人生に幕を下ろしてしまう人が多いのだが・・・・。」とは前に書いたが、(「彼の住む場所」のような戦いではなく)苦しみと戦う強さも見てみたかった。

特に、「祈灯」「瑠璃」が秀逸である。

第16回小説推理新人賞受賞(眠りの海)
「このミステリーがすごい!2000年版」第10位

・形式

小説、短篇集

・あらすじ

もういない、大切な人へ

彼女と会ったとき、誰かに似ていると思った。
何のことはない。その顔は、幼い頃の私と同じ顔なのだ。

生徒に対して距離をとって接する私が、彼女にだけ近づいたのは
自然な流れだった――。

夜の海辺で、恋人と過ごした日々を回想する私。
だがその裏には、これまで見えていなかった真実が
息を潜めていた。(「眠りの海」)

「このミステリーがすごい!2000年版」第10位!
小説推理新人賞受賞作「眠りの海」を収録。

透明感溢れる哀切と驚きにみちた、デビュー短編集。

・収録話数

「眠りの海」
「祈灯」
「蝉の証」
「瑠璃」
「彼の棲む場所」

・初出

「眠りの海」    小説推理、1994年8月号
「祈灯」      小説推理、1995年4月号
「蝉の証」     小説推理、1996年1月号
「瑠璃」      小説推理、1997年9月号
「彼の棲む場所」  小説推理、1998年4月号

・受賞歴、ランキング

第16回小説推理新人賞受賞「眠りの海」

「このミステリーがすごい!2000年版」第10位

・読了日

2008年2月9日

・読了媒体

MISSING(双葉文庫)