『太陽の塔』森見登美彦の感想

小説

『太陽の塔』 森見登美彦著/新潮社

【内容】

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

【著者紹介】

森見 登美彦
1979(昭和54)年、奈良県生れ。京都大学農学部大学院修士課程修了。『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー

【感想】

本作は森見登美彦のデビュー作です。

森見登美彦といえば、山本周五郎賞を受賞した「夜は短し歩けよ乙女」が有名でしょうが、単行本の帯にもあるとおり、森見の原点は本作にあるように思われます。(これは単行本の帯で、文庫本の帯を見たら「すべての失恋男たちに捧ぐ」とありました。なんか可哀想です・・・)

本作の主人公は「素直」とは言えない男です。研究と称しストーカー行為と限りなく近い行為を行ったり、恋敵と思われる男の部屋を一大昆虫王国にしようと画策したりと、とんでもない男です。

脇役たちも曲者ぞろいです。夢をなくしてしまった男「飾磨」、女性に告白されただけで逃げる巨人「高藪」、あるいは「遠藤」などと枚挙に遑がありません。

しかし、緊迫感とは対極にあるような世界が描かれています。それは、彼らがクリスマスを呪い、聖ヴァレンタインを罵倒するという、浮かれている世間に対するささやかな挑戦をしているからなのでしょうか。これを理解すると、帯の文句もうなずけます。

著者の独特な表現や、回りくどい言い回しには、笑わされてしまいました。

著者の描き出したこの不思議な世界を堪能されてはいかがでしょうか。(個人的には『夜は短し歩けよ乙女』のほうが、森見の世界を味わうことができると思いますが。)

・気に入った台詞 「おのれ遠藤!」
・好きな登場人物  森本(主人公)

第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

荒俣宏の選評にもある通り、『太陽の塔』の文体は、「あまりに技巧に走りすぎた場合、鼻につく危険のある文体」だ。少しやりすぎてしまうとうざったらしく勘違いした自称イケメンのようになってしまうし、逆にやらなすぎてしまうと、話の滑稽さ珍妙さに文体が負けてしまう。森見は新人賞応募作にしてこの絶妙な綱渡りを渡りきった。それはまさしく本作が最終選考会で好評を博した理由であり、またその後の躍進にもつながっていることだろうと思う。(2017.10.18)