本の情報ブログ 火の秋のモノガタリ

現在試運転中です。

仮題

未推敲

誤字御免

急遽仕上げる気持ちになったのでブログで公開します。ゆるゆる甘めに見て1ヶ月くらいで下書き完成。もう1ヶ月くらいで推敲終わりまでいけたらいいなくらいの考え。

 

 

 

 僕は幽霊というものを信じてはいなかった。僕は幽霊をそれまで一度も見たことはなかったし、なにか超常的な能力や現象に遭遇したこともなかった。それでも警察官という職業柄、幽霊の話を聞いたことは何度もある。僕の周囲の先輩の警察官は、それが年上であればあるほどそういう話をしたがったものだ。警察官として配属されて、仕事のやり方やこの世界での常識を覚えていく中の一つとして、まるで受け継がれているとでも言うかのように先輩たちは新人たちに幽霊の話を聞かせた。
 しかしやはり僕は先輩たちの話を信じてはいなかった。それらの話は夜間の張り込みや、殺人事件の現場などに集中していて、いかにもありがちな話だという印象は拭えなかった。とりわけストーリー仕立てで話されるといかにも作り話なのだと。警察官という仕事は予想と違って地味なデスクワークもかなり多い。夢や志を抱えて警察官になった新人を少しでも楽しませてやろうという優しさかなと受け取っていた節もある。
「ミナミ、お前俺の言ってること信じてないだろ?」とそんな僕の態度で先輩警官たちにはバレバレだったようだ。「まあ俺もそうだったよ。新人のときにな先輩たちに聞かされて。大真面目な顔をして言う先輩なんか演技派だななんて感心してたくらいだ」
「見たことあるんですか?」と僕は尋ねた。信じてるんですか?とは聞かなかった。
「うん?」
「幽霊」
「あるよ」先輩は前方を見たまま言った。「しかも一回や二回じゃない。詳しい回数は覚えてないけどな。いつも唐突にやって来てさっといなくなっちまうし」
 僕はそういった先輩たちの言葉に曖昧に頷くだけだった。先輩たちの言葉は、僕が笑い飛ばすには不似合いな緊張感を秘めていた。しかも先輩の誰しもが幽霊について語るとき、まるでいなくなった同僚についての話をするような調子が含まれていた。そんな言葉を笑い飛ばせるほど、僕は世間知らずではなかったし、また大人でもなかった。

 

 

 僕がその手紙を受け取ったのは、自分の机で報告書をまとめているときだった。
 僕がそのとき担当していたのは少額の窃盗事件で、犯人も捕まって犯行を自供していたし、あとは報告書をまとめて検察にまかせるだけだった。
 しかし事件の詳細を見ると報告書をまとめる手はどことなく重かった。犯人は僕の父親と言ってもいいくらいの年齢の男性。罪状は窃盗。賽銭箱から小銭を盗んで捕まったのだ。金額はアルバイトの時給にも及ばない金額でしかなかった。
 いや、彼は賽銭箱の中身を持って行ったのだから金額はあまり関係ないのかもしれない。千円あれば千円を、一万円があれば一万円を、極端に言えば百万円だって持って行っただろうから。それでも現実に犯人が持って行ったのは数百円に過ぎない。僕は自分が犯人の年齢になったときに数百円を盗む様子を想像した。賽銭箱、あるいは酔っぱらっているサラリーマンの財布からでもいい。そしてそれからそういうことが起こりうるかどうかを想像した。これは僕の悪い癖だった。こんな想像はやめたほうがいい、なんの意味もないのだからということは自分でも分かっていた。しかしその想像は僕の頭の中に流れ込んできた。僕はそのたびにその想像の流れをせき止める作業を必要とした。僕はこの悪癖について誰にも言ったことはなかった。「今の仕事に不満でもあるの?」もしくは「今の仕事辞めたいの?」という質問が来ることは容易に予想が付いたし、それらはあまりに僕の感情から遠く離れた返答だったからだ。しかしそのときの想像はそれほど発展することなく終了した。僕が盗みを働くことにするならもう少し大金を狙うはずだと思ったからだ。
 僕は上司のお目付け役的な視線を感じながら、報告書を仕上げていった。地味なデスクワークは嫌いではなかった。しばらく管轄内で署員が駆り出されるような凶悪事件は起きていなかったし、お昼時ということもあって周囲には弛緩した空気が流れていた。警察が暇で緩やかに仕事ができるのは幸せなことだ。僕も昼食を食べたばかりで眠気を覚えていた。署員に郵便物を届けているおばさんが僕に話しかけてきた。
「なんだか眠そうだけど大丈夫?ガムあげようか」
 僕はおばさんの名前を思い出そうとしたが、ど忘れしたのか思い出せなかった。
「いいえ、大丈夫です」と僕は笑顔を作る。
「はいこれ」とおばさんは僕に郵便物を差し出す。
「ありがとうごさいます」と僕は機械的に受け取る。
 警察署に来る郵便物の大半は業務的なものだ。捜査中に生じた費用の請求書、関係者からの報告書的な手紙。あとは被害者からのお礼状。たまにある被害者からのお礼状はとても励みになる。どんな事件、どんな内容であっても。対象者を監視するためにペアを組んでいた先輩など、苦笑しながら「礼状どころか、プロポーズの手紙を受け取ったことがあるぞ」などと言った。
「結婚したらよかったじゃないですか」と僕は言った。
「いやぁ、さすがに小学生はマズいだろ。俺が逮捕されちまうよ」
「何年後かに尋ねてくるかもしれませんよ。あのとき手紙を書いた者ですがって」
「男はつらいねぇ」
 そこで会話は途切れた。対象者の男が姿を見せたからだ。
 そういえばあのときの男はどうなったんだっけと、思考が流れて行きそうになるのを、僕は郵便物を確認することで抑制した。暇なときに請求書をまとめ、報告書を仕上げておかないと忙しくなったときに痛い目を見る。一度請求書を上げそこなったことで少なくない捜査費用が自腹になった。自腹で捜査をする警察官。なんて事件解決に精力を注いでるんだろう!警察官の鑑だ!などどそのときは自虐的になるしかなかった。


 

 郵便物は三つあった。僕は郵便物の封を開き中身を確認していった。一つ目は尾行に使ったタクシーの領収書だった。けっこう馬鹿にならない金額でこれは絶対に請求しないといけなかった。タダ働きを繰り返すわけにはいけない。二つ目は僕が捕まえた犯人のその後を知らせるものだった。事務的ではあったが几帳面な人なのだろうということが伝わる文面だった。今どきこの手の手紙を送ってくる人はなかなかいない。
 三つ目が問題だった。白い封筒の表側には「○○警察署 ミナミ様」と書かれてはいたが、差出人の名前はどこにも書かれてはいなかった。僕は訝し気に思いながら、鋏で封を切った。中には一枚の紙が三つ折りにされて入っていた。その手紙に書いてある文を見て僕は戸惑った。「○○高校に爆弾があります。」
 三つに折られた紙の上で、縦に書かれたその文も三つに折れていた。達筆で一目には印刷されたようにも見えるが手書きだった。僕はもう一度手紙を読んだ。「○○高校に爆弾があります。」紙を裏返してみたが、その一文の他にはなにも書かれてはいない。この手紙はなんなのだろうか?どこかを、誰かを脅迫しているわけでもない。金銭や特赦を要求しているわけでもない。ましてや自身の犯行を伝えるものでもないかもしれない。「爆弾を仕掛けました」ではなく「爆弾があります」なのだ。自転車が放置されています。駐車場にずっと停まっている無人の車があります。そんな取り立てて騒ぐことでもないような雰囲気。
 日本国内で実際に爆弾が爆発したのはどのくらい前なのだろう?かつてはそういう事件もあったと聞いた。しかし僕が警察官として働き始めてから爆弾の話は聞いたことはない。たびたび脅迫状が届いているというニュースは見るが、すべてが偽物だった。それだって威力業務妨害でれっきとした犯罪で、警察が出て行く必要があったが。
 僕はその手紙を見て一瞬固まっていたが、上司の判断を仰ぐべくまもなく立ち上がった。この手紙の是非を判断するのは僕の仕事ではない。立ち上がってすぐ上司と目線が合った。僕はそんなに仕事をしていないように見えるのだろうか?それは不本意だ。僕はこれでも熱心に仕事に取り組んでいるつもりだ。僕は少し緊張しながら上司のデスクへと歩いて行った。
「なにか用か?」と上司は目だけで語った。
「これを見てもらえますか?」と僕は手紙を渡した。
 手紙を渡してすぐ、自分が手紙の指紋を考慮していないこと、指紋を採取するために注意すべきだったことに思い至った。普段なら真っ先に注意するところだ。後から反省的に振り返ってみると、この事件に関して不思議なほど僕は冷静さを欠いていた。それは僕が部署で一番新入りだからだとか、関係者に知り合いがいただとかそういう範疇を大きく超えていた。

 


「なんだこれは?」と上司は僕を見て言った。「ミナミ、お前宛に送られてきたのか?」
「そうです。突然のことでなにがなんやら」
 上司はそこでふうっと大きく息をつき手紙へと視線を戻した。上司も明らかに扱いに困っているようだった。ここが一般企業だったらタチの悪いイタズラとして無視したかもしれない。しかしここは警察署なのだ。無視してなにかが起こった場合、「イタズラだと思いました」では済まされない。
「とにかく確認しに行かないわけにはいかないだろうな」と上司はひとりごちるように言った。
 上司は僕と先輩に声をかけ高校へと向かうように命じた。そして僕らの返事を聞き終わる前に卓上の受話器を手に取り、どこかへと電話をかけ始めた。僕と先輩はとりあえず取る物を取り車に乗り込んだ。車を運転するのは後輩である僕の役目だ。助手席に先輩が乗り込んだが、覆面パトカーのサイレンは鳴らさない。
「どういうことなんだミナミ?」と先輩は僕に尋ねた。
しかし僕にもなにがなんだかわからない。
「いやなにがなんだかよくわからないんですよ」
「爆弾を仕掛けたって脅迫状だろ?」
「でも脅迫状ってわりには、なんていうか、のんびりしてるっていうか、とぼけたような文面なんですよね。爆弾を仕掛けたじゃなくて、爆弾がありますって書いてあるんですよ。その他に要求していることもないみたいですし」
「不発弾じゃないだろうしな。イタズラか愉快犯か変質者か」
「関係者が密告したって可能性もありますかね?爆弾を仕掛けるのはやりすぎだって」
「かもなぁ」
 そのとき車内の通信機から上司の声が響いた。警邏中のパトカーを高校へと集結させているらしい。上司は現場の指揮を先輩に任せるようだ。上司の声には緊張しているのか高揚しているのか普段とは違う調子が含まれていた。それでも「なにかあったらすぐ連絡しろよ。爆弾があってもなくてもだ。逐一報告は入れろよ」と言うことは忘れなかった。
「なんだか随分張り切ってるな」と先輩は淡々としている。僕とは対照的だ。そういえば僕は先輩の緊張しているところを見た記憶がない。
「そりゃ爆弾ですよ。もし本当に仕掛けられていたら大事件じゃないですか」
「本当に仕掛けられてたらな」
「先輩は爆弾はないと思ってるんですか?」
「いや分かんねぇよそんなこと。でも本当に爆弾があって、なおかつ犯人が爆発させようとしているのなら、警察に手紙は送って来ないだろ。そんなことをしたら警察が向かわないわけないからな」
「じゃイタズラか関係者ですかね?」
「イタズラだよ」先輩はやはり淡々としている。「関係者がやったのなら、犯人は高校にパトカーが集まってるのを不審に思ってなにか行動を起こしてるはずだ。爆弾を本当に仕掛けたのなら、その場所から注意を離せられるはずがない。脅迫するか、爆発させるか。犯人は双眼鏡でも使って警察の動きを見て楽しんでるんじゃないか?」
 確かにその通りだ。先輩の言ってることは筋が通っていて正しいことのように思える。しかし。
「それにしてもどうして犯人は高校になんか爆弾を仕掛けたんでしょう?」
 爆弾を仕掛けるのなら、駅、市役所、デパート、そのようなところが思い浮かんだ。人の集まる場所。もしくは思想犯や政治犯が狙うのなら行政府か。
「だよな。仕掛けるのならこんな田舎の高校じゃなくて東京とかにしてほしいよな。国会議事堂とか東京都庁とかさ」
 先輩の問題発言に対してどう答えていいのかわからず僕は困ったように微笑んだ。先輩はその僕の様子を感じ取ったかどうか定かではないが一転して黙りこくり、車内は静寂に包まれた。黙っていると、緊張感が掘り起こされるようで嫌だった。本当に爆弾があったらどうなるのだろう?僕は校内を探索する自分が爆弾を見つけ出し、困惑するあまりに身動きできず対面している様子を思い描いた。それは僕の頭の中に一瞬で広がった。ありえることだ。これがイタズラでもなんでもなくて怨恨か愉快犯によるものであった場合ありえることだ。ハンドルを握る手が不快に汗ばんでいた。
 高校の正門につながる道に曲がったところで信号に捕まり僕は一度車を停めた。今は覆面だ。信号を無視するわけにはいかなかった。先輩は右前方にかすかに見える高校を見ながら再び口を開いた。
「ミナミ」
「はい」
「お前卒業生だったよな」
「はい、そうです」
「俺もだよ」
「そうですか」
「俺なぁ、高校の時勉強すんの苦手だったんだけど、最近になってもっと勉強しとけばよかったのかなって思うんだよ」僕もそうだ。「だから後輩たちには満足いくまで勉強してもらわないとなぁ」
 それは先輩なりの精一杯の決意表明だった。

 

 

 高校の正門付近にはパトカーが三台も停まっており、制服の警官が年配の教員に対して話をしていた。ここからは全体は見えないが生徒たちはすでに校庭への避難が完了しているようだ。車が停まるかどうかというタイミングで先輩は慌ただしく車を降り、警察手帳をまるで水戸黄門の印籠のように大げさに示しながら話をしている方へと走っていった。僕は教員駐車場らしき一角に空いている場所を見つけ車を停車させた。
 高校に来るのは随分と久しぶりだった。自分が卒業してから高校に来たことがあったかどうか思い出そうとしたがはっきりとは思い出せなかった。覚えていないということはきっと一度も来たことがなかったのだろうと思う。
 高校の校舎は平行に四棟が並んでいる。校舎の右手に校庭があり、左手には体育館が2つとプール、部活棟、武道場などがある。しかし、それらのいくつかは僕の卒業後に新しく建て替えられたと聞いた。実際に今校舎の前に立って見上げてみると、平行に並んだ校舎のうち奥側の二棟と手前の二棟では明らかに造りが違うことが分かる。第一棟と第二棟は古びているという印象を受けるほどではないが、周りの新築の建築物と比べるとくすんでしまっている。コンクリートにはところどころに小さな傷やひびが走り、表面には薄黒い汚れがシミのようにこびりついている。
 先輩のところまで小走りで駆け寄ると、先輩は僕に「遅せぇよ」と表情だけで文句を言い、僕が少し頭を下げる間にも、年配の教員と相談を続けていた。先輩はパトカーで駆け付けた警官を何班にか分けて校内を探索させようとしていた。それに対して教員は、自分たちも探索に参加すると主張しているのだった。しかし先輩はその提案を屈強に跳ね除けようとしていた。危険な探索に一般人を関わらせるわけにはいかないからだ。それでも教員は、一番校舎について詳しいのは自分たちだからと、引かなかった。しかし先輩も引かなかった。先輩は短時間ながら屈強な交渉の末に、まず警官が大まかに探索を行い、一通り見て回ったあとに教員も加わって探索を行うということを了承させた。警官が「大まかに」探索を行うことがない以上この決定はこちら側の主張が100パーセント通ったものだった。
 まず警官たちは第一体育館を念入りに探索した。教員と生徒たちが室内で待機できるように。用具室と床下、天井近くの肋骨の上に至るまで、探索は迅速かつ徹底的に行われた。まず警官だけでの探索が行われ、その後決まっていたように、教員たちを加えた探索が行われたが、不審物はなにも見つからなかった。そのために校庭で待機していた生徒たちは第一体育館に移動した。
 先輩はその後、警官たちを三班に分けた。それぞれが、第一棟と第二棟、第三棟と第四棟、周辺の学校施設を、手分けして探索するためだ。
「ミナミ」と先輩は僕を呼んだ。
「はい」
「お前が学生のときに新校舎はもうあったか?」
「いいえ、新校舎ができたのは僕が卒業した後です」
「そうか、武道場とか部室棟はどうだ?」
「ありました」
「じゃあ、俺が旧校舎を見て回る。お前は校舎の外を探してくれ」先輩は制服の警官たちに向き直った。「残りは新校舎を頼む」
 先輩の声を合図にして、待ち切れないといった雰囲気の警官たちが校内に突入していく。突入していく警官たちと、それを見守る教員たち。その対比を一瞬傍観しようとしている自分に気が付いた。たとえその姿を変容させたといっても、僕がしばらく足を踏み入れていないといっても、この場所は事件が起こる場所としてはあまりにも身近すぎた。僕はかつて新人時代そうだったように、捜査を始める足を動かすことができなかった。先輩がいたら「なにぼうっとしてんだ」と背中を叩かれたことだろう。僕の体を動かしたのは、僕の班に割り当てられた警官たちの視線だった。僕はできるだけ平静を装うと、機械的に警官たちに指示を与えていった。
 僕の班は部室棟、武道場、プールを探索していった。付近のゴミ捨て場や、駐輪場を探索することも忘れなかった。しかし不審なものはなにも見つからなかった。その場にあるのは、高校の授業で必要なものばかりだった。あるいは部活動で必要なもの。学校に似つかわしいものはタバコの一本に至るまで見つからなかった。僕らは確認に確認を重ねた後、結果を先輩に報告した。他の班も不審物を発見することはできなかった。その後もう一度教員たちを加えて探索を行ったが、やはり結果は変わらなかった。
 探索を終えた警官たちと教員たちが第一体育館に集まり報告をしあった。その結果におそらくその場にいた全員が胸をなで下ろしたが、僕はすっきりとしなかった。先輩は署へと電話をかけて、爆弾は見つからなかった旨を報告した。その後教員たちへ生徒を教室に戻してもかまわないということを伝え、警官たちを解散させ、周辺のパトロールをするようにと指示した。

 


 その後僕と先輩は手分けして教員たちへと簡単な事情聴取を行った。話しやすいようにと個室を用意してもらったが、別に来署してもらうわけでもないそれらは簡易的で事務的なものに過ぎなかった。今回のような事件で、つまりイタズラが疑われるような事件で、関係者に事情聴取を行ったところで、参考になるような証言が出てくることはなかなかない。

 僕はあてがわれた席に腰かけ、教員たちから話を聞いた。以前にも似たようなことは起こらなかったか?犯人に心当たりはないか?学校の周辺で不審な人物を見かけなかったか?予想通り反応は鈍かった。こんなことは初めてです。犯人に心当たりはありません。不審人物を見かけたことはありません。教員たちは判を押したように同じ回答をした。なにか思い出したことがあったらどんな些細なことでもいいので連絡をください、と言って僕は教員たちとの事情聴取を済ませていった。だいぶ後半になって一人の若い女性の教員が部屋に入ってきた。それは僕の高校時代の同級生だった。僕は驚いたが、できるだけ表情に出ないように努めた。ユイはちょっと怯えたように伏し目がちに近寄ってきた。ユイは目の前の警官が高校時代の同級生だということに気が付いているだろうか?僕は自ら名乗り出すかどうか一瞬悩んだが、すぐに名乗ったほうがユイの緊張も解け話しやすくなるのではないかという結論に至った。
「あの、突然なんですけど」と言って僕は警察手帳を出し自分の名前を見せた。「ユイ、だよね?高校のとき一緒だった」
「うん、そう。久しぶりだね」と言ってユイはぎこちなく微笑んだ。「ミナミ君一目見てすぐに分かったよ」
「え、なんで?」
「だって高校のときから外見全然変わってないもん」
 外見で言えばユイもそれほど変わってはいなかった。着ている服が、高校のブレザーの制服からスーツに変わっても同世代の女性からは若く見えた。教師という立場上メイクも髪も派手にはできないのだろう。そのせいかもしれない。ユイの表情はこわばんだままだったが、それでも入室時と比べればいささか和らいだようにも思えた。僕は他の教員たちにした質問をユイに繰り返した。ユイは僕の質問を聞いても「ううん」とか「いや」とか言いながら否定するばかりだった。彼女はどこか沈んだように会話を続けた。僕はユイが緊張しているのだと思ったが、質問を続けていっても変化は訪れなかった。
「どうかしたの?なにか気になることでもあった?」と僕はできるだけなんでもないような素振りを心掛けて尋ねた。
「え?」
「どこか心ここにあらずって感じだから」
「そんなことないよ」
「そう?ならいいんだけど」
「ただ」
「ただ?」
「本当にこんなこと起こるんだなって。だって爆弾だよ?こんな地方のただの県立高校に爆弾って、そんなこと本当にあるんだって。生徒の喫煙や飲酒だって全然ないような学校なのにだよ?高校に爆弾しかけてどうしようっていうんだろうね」
「それは僕らがこれから全力で調べるよ。まず間違いなく愉快犯だろうけどさ」僕はユイを安心させるためにわざとこんなことを言ったのだった。「これだけ探して見つからなかったんだから、爆弾があるとしたら相当手の込んだマネをするしかない。でも外部者が目立った痕跡も残さずに姿も見られずにそんなことできるはずがないよ。だからそんなに心配したり、不安がったりすることはないと思う」
「うん。そうだね」とユイは言ったが、それは彼女のための言葉ではなく、僕のために発せられた言葉だった。
「とにかく、なにか気になったこととか、思い出したりしたことがあったら連絡して」と言って僕は彼女に名刺を渡した。
「電話番号とメールアドレスって変わった?」とユイは名刺を見ながら尋ねた。
「いやずっと一緒だよ」
「じゃあ、名刺いいよ。アド帳に入ってるから」とユイは僕に名刺を返した。

 


 その後学校は休校になり、生徒たちはすぐに帰宅させられることになった。僕と先輩は制服警官たちを通常の業務へと戻した。制服警官たちは未だに興奮が抑えられない様子だったが、先輩の言葉に従い、それぞれパトカーに乗り込んでいった。
 僕と先輩は教職員を交えもう一度探索を行った。体育館の床下、玄関に置かれた植物の鉢の中、昇降口の前にある側溝。それらは爆弾がないことを証明したいという無理な欲求による行為だったのかもしれない。とにかく僕らは中を覗くことのできる場所はすべて探索し、考えられる場所を探し続けた。夕方になっても何の成果もあがらず、僕と先輩は引き上げることになった。高校は危険な場所なのではなく、普段通りの学び舎でしかなかった。
「とにかくこれだけ探してもなかったんだから安心ですね」と言う教員に、先輩は「これからもなにか気になることがあったらすぐに連絡をください。そんなに大げさなことでなくてもおっしゃってください」と穏やかに告げた。
 署へと帰る途中の車内は静かだった。先輩は車に乗り込んだ途端、大きくため息をついたきり黙りこくっていた。先輩はずっと窓の外を何の気なしに眺めているようだった。僕はまるでそんな二人の様子を喧嘩をしたカップルのようだなと思いながら黙っていた。いま振り返ってみるとなぜ先輩はこのとき黙りこくっていたのだろうか?そんなに疲れていたのだろうか?そして僕はどうして自分たちのことを喧嘩したカップルなどと呑気なことを考えていたのだろうか?先輩のことはわからないが、僕は高校時代の三年間を過ごした場所に戻って、そして当時の同級生に再会して、いまの警察官という職業から遠ざかってしまったのかもしれない。それだって爆弾が見つからなかったという気楽さに由来していたのではないだろうか。
 僕と先輩は署に戻り、すぐに上司へと報告を始めた。おもに先輩が現場の状況と捜索過程、結果を報告した。上司は安心したような素振りを見せたが、言葉にすることはせずに先輩の報告に耳を傾けた。
「最終的には警官だけではなく、教職員も加わって探索を行いましたが、爆弾は見つかりませんでした。床下や天井裏に絶対にないとは言い切れませんが徹底的に探索を行うべきでしょうか?」
「いや、どうだろうな。学校なんて人の目につくところでそんなご丁寧に爆弾を仕込めたとは思えん。もしあるとしたら植木の中とか、鞄の中とかそういう持ち運びのできるものの中のはずだ。そういうところは徹底的に探したんだろ?」
「はい」
「なら愉快犯かイタズラか、そんなもんだろう。その線で報告書まとめておけ」
 僕と先輩は返事をすると頭を下げ自分のデスクへと戻った。
 僕は自分が報告書をこれからまとめることになるだろうなと覚悟して内心ため息をついた。これから報告書をまとめ始めたら残業は確実だ。それでも明日に仕事を持ちこすことはしたくなかった。周りの人間たちが目を光らせていて許してくれそうもない。
 しかし先輩は「ミナミ、いいよ俺がやっとく」と仕事を引き受けてくれるようだった。普段仕事に対してそれほど熱心な様子を見せないというか、気だるげな様子さえ見せる先輩にしてはめずらしい発言だった。「それじゃ頼むわ」とか言って僕に丸投げするのが先輩の常だった。
「え?いいですよ。やりますよ」と僕は言った。内心とは違う言葉が反射的に飛び出した。
「もうこんな時間だし、今日は疲れたろ。適当に仕事が片付いたら帰れよ。報告書はこっちで作っとくから」
「いいんですか?ホントに?」
「ああ、いいよ。別にあとで貸しとかじゃないから」と先輩は僕をあしらうかのように手を振った。
 こういうときは先輩の気が変わらないうちにさっさと帰ってしまうに限る。僕は机の上を片付けると先輩に一声かけ職場を後にした。
 署から出ると外はすでに真っ暗だった。署に帰ってきてから報告を済ませる間のわずかな時間に太陽はすっかりその姿を隠してしまった。家に帰っても食べるものはない。警察官になってからしばらく住んだ寮から今のアパートに移ったときはのびのびとした気分を味わったものだが、すぐに食事が自然と出てこないことに困り果ててしまった。寮の味が濃い味噌汁が飲みたくなってくるものだ。

 

 

 食事を済ませ家に帰ってくると、その瞬間を狙いすましたかのように電話が掛かってきた。僕は震え続ける携帯電話をズボンのポケットから取り出すと、画面を見て通話相手を確認した。そこにはユイの名前が表示されていた。これはもう何年もなかったことだった。いや、これまで一度でもあっただろうか?内容は事件についてのことでしかありえなかった。僕はベッドに腰かけると画面に表示されている「通話」の文字に触れた。
「もしもし」
「あ、もしもし、ミナミ君?」
「うん、ユイ?」
「うん」
「よかった。電話番号が替わってなくて」
 ユイは少し緊張しているようだった。僕は電話で人と話すことが苦手なので、ユイもそうなのかなと思った。しかしユイの口調に注意してみるとユイは緊張しているというより悩んで歯切れが悪くなっているようだった。
「替わってないよ。さっき言ったように同じまんまだから」
「うん、そうなんだけどね、いざ掛けてみると不安じゃない?プルルルってコール音のしている間って当選っていうか合格発表を待たされていうような嫌な緊張感があるっていうか。携帯電話に掛けても本当にその人が出るのかなって思うんだよね」
「たしかに今でも緊張はするけどさ」と僕はぼんやりと同意した。

「うん」と相槌を打ってユイは一呼吸入れた。「ねえもう一回学校に来てもらうのって無理かな」

「どうして?」

「やっぱりさ気になるんだよね、爆弾。」

「気持ちは分かるけど」

「うん、そうじゃないんだよ。」

 

 

 

 

・プロット
僕、高校に爆弾が仕掛けられたという脅迫状を受け取る
僕、半信半疑
僕はその高校の卒業生で警察官
僕、電話し高校へと向かう
僕、教師になっていた高校時代の同級生ユイと再会する
ユイはとても不安がっている
同行した警官数人が生徒教員を避難させる
僕、見て回るが爆弾はない
生徒たち早めに帰宅させられる。
僕、署に戻る
僕、ユイから電話を受ける
良かった携帯の電話番号が変わってなくて
ねぇ心配だからもう一回学校まで来てくれない?もう一度見回りたいの
僕断ろうとする
ユイ折れない
僕了解して学校へと向かう
ユイ、着替えてきている。スーツではない。ラフな格好
ユイ、僕に手紙を見せる。それは脅迫状。学校に爆弾を仕掛けた
僕、なんで警察に知らせなかったのか
ユイ、だっていたずらだと思ったから。高校に仕掛けても何の得にもならないし
僕ら、ユキが開けておいた窓から侵入する
僕ら、校門に近い方から見て回る。灯りは使えないので時間が掛かる
学校四列平行
職員室棟、二棟目にはなにもない。僕が昼に見て回ったところ
僕、建て替えられた第三四棟には入ったことがない
僕、こっちに入るのは初めてだな何年か前に建て替えられたんだよな?
ユイ、そうもう四年前?かな
僕、校舎が綺麗なことをうらやましがる
第三棟、第四棟にもなにもない
僕、やっぱりないんじゃないか。天井裏とか地下って可能性もなくはないけど確認できないし
ユイ、そんな場所にしかけるのはなかなか大変なんじゃないかな。学校はとにかく人の目が光ってる場所だから
僕、帰ろうか
ユイ、まだ体育館と図書室があるよ
体育館にはなにもない建て替えられた体育館は綺麗だ
図書館へと向かう
図書館は当時のまま建て替えられていない
図書館では女の子が月明りで本を読んでいる
ユイ驚いて叫び僕の背中に隠れる
女の子はその声を聞いてこちらへと視線を向ける
女の子「こんばんは」
僕らの知らない女の子だ
僕ら挨拶を返そうとするが声が出ない
しばらく奇妙な沈黙のまま見つめ合う
ユイ「あなた何年生?なんで夜の学校に忍び込んでいるの?」
女の子「何年生?たぶん二年生かな?」女の子は自分のネクタイを示す
ユイ「嘘。私二年生の(なんかの科目)担当してるんだから」
僕「名前は?」
女の子「人に名前を尋ねるときは自分から名乗るのが~。私の名前はタチバナ・アオイ」
やっぱりユイの知らない生徒のようだ
僕、とにかくこんな時間に、いや学校に忍び込むのはいけないよ。
アオイ、「忍び込んでいるのはあなたたちの方じゃない?」
僕、爆弾探しはいったん中断だなと思う。警察に連れて行くほかないがこの状況を説明するのはやっかいだ
僕、とにかくこんな時間だしいったん署に来てもらうよ。しかたがない
アオイ、署?あなた警察官なの?
僕、そうだよ、とにかく来て
アオイ、じゃあ連れてって、と手を伸ばす。不思議と子どもじみた仕草で
僕、歩み寄ってアオイの手を掴もうとする
しかしつかめない
僕、二度目もつかめない
アオイ、警察署に連れて行ってくれないの?と笑う
僕、君は
アオイ、そう幽霊なの。だから忍び込んでいるのはあなたたちのほう。私の住んでいるところにね
ユキ、アオイの腕を掴もうとするがすり抜ける「そんな」
アオイ、私としてはあなたたちがつかめないほうがびっくりなんだけど
アオイ、どうしてあなたたちは私の領域(テリトリー?)に入ってきたの?
爆弾を探しているんだ
へぇでも私の知る限りこの校舎にはないわね
そうか、信じることができるかは分からないが
でももう一つ(2つ?)の校舎のほうなら分からないわ最近行ってないから
もう1つ?
なんなら行って来たら?
アオイ時計を見る
でももうこんな時間(四時?)また明日来てくれたら案内できますよ
ユイ素っ頓狂な質問をする
アオイ???


次の日
図書館の絵の中から以前の校舎の中に入る
アオイが二人の腕を掴んでいれば入ることができる
あなたたちからは触ることはできないけど私からは触ることができるのよ
不思議
でも心霊体験ってだいたいそうでしょ。体にあざとか残ってる。掴み方が雑なのね慣れてなかったりとか
幽霊でも心霊写真見るの?
はい、昔からオカルトが好きなので

懐かしい
探し回る
爆弾がある
それは僕とユイが通っていた教室だ
懐かしいね席どこだったっけ
僕は一番前の列の左から二つ目だった
ユイ、自分の席の記憶が曖昧
ねえアオイはどこだったの?
なれなれしいそういえばこういうやつだった
さぁどこだったか

爆弾を爆発させることはできそう
解体して持ち帰ることはできない
爆発したらこの校舎くらいひとたまりもないでしょうね
もう少し考えたら
今の校舎には影響はないんだし

僕とユイ、メールかラインで連絡を取る
どうしたらいいんだろう
なぜじぶんがこんなに悩んでいるのか
僕、爆弾をどうもしない
僕、「つまりアオイと絵が必要なんだこの校舎と爆弾にたどり着くまでには」
しかしアオイをどうこうすることはできない
なら絵のほうをどうにかするしかない

僕絵を盗み持ち帰る。
僕自分の部屋の中で絵を見ながらどうするか考える」
これは本当にあったことなのか?と爆弾騒動に思いをはせる。「事件は本当に起こったのか、あるいは誰かと出会ったのか、爆弾は本当にあったのか。そんなことはどうでもいいことのように思われた。」