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本の情報ブログ 火の秋のモノガタリ

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インストール /綿矢りさ

・形式

 小説、中篇

 


・あらすじ

学校生活&受験勉強からドロップアウトすることを決めた高校生、朝子。ゴミ捨て場で出会った小学生、かずよしに誘われておんぼろコンピューターでボロもうけを企てるが!?押入れの秘密のコンピューター部屋から覗いた大人の世界を通して、二人の成長を描く第三八回文藝賞受賞作。

 


・収録話数

 


・初出

 文藝、2001年冬季号

 


・刊行情報

 インストール(河出書房新社)

2001年11月


インストール(河出文庫)

2005年10月

 


・受賞歴、ランキング

第38回文藝賞(文藝、2001年冬季号)

 

石川忠司

 

多和田葉子

 

藤沢周

 

保坂和志

 

 

第15回三島由紀夫賞候補(新潮、2003年7月号)

 

島田雅彦

 

高樹のぶ子

 

筒井康隆

 

福田和也○

「話者の意識の構成、エピソードの継起の仕組みといい、きめ細かく構成されていて瑕疵がなかった」

 

宮本輝

 


・読了日

 


・読了媒体

 インストール(河出文庫)

 


・感想メモ

とにかく、文章が上手です。

 


これのどこが上手なんだ。「である」調と「です、ます」調が混雑した、変な文章じゃないか、と文句をつけられそうですが、これを行って文章が成り立つというのは実に難しいことです。

 


かつては(というほどでもないですけど)、よしもとばななさんがまだ吉本ばなな*1さんのとき、特に「キッチン」を書いたときその手法を絶賛されていました。

 


文章が上手いことと合わせて、物語が朝子の一人称で進んでいくため、今何が起きているの?という疑問を持つこともなく読み進めていくことが出来ます。

 

朝子は苛められていたのか?


朝子のドロップアウト母が知ったとき、母は「いじめられてたの?」と尋ねます。

 


結論から言うと、朝子は苛められていたのだと思います。冒頭のシーンで、朝子が話しているのは、クラス唯一の男子です。しかも話しているのは、かなり哲学的な内容を含む事。しかもドロップアウトするかということなのです。さらに、母からこのことを言われた後、朝子は何かから逃げたい一心で廊下を走り、かずよしの直してくれたパソコンのあるかずよしの部屋へと向かいます。なによりあらすじには、「学校生活&受験勉強からドロップアウト」と書いてあります。勉強が嫌なら、受験勉強からドロップアウトで良いはずです。それが学校生活もプラスされているのですから、そう思えます。

 


いじめというのは個人の否定です。そして、朝子が行った部屋の中身を全て捨ててしまう行為も、今まで自分の個人を決定づける物を全て捨ててしまうことですから、これも個人を否定することです。なぜ朝子自身がそんなことをするのかと疑問に思われる方が大半でしょうが、私にはこれはとても自然なことのように思えるのです。例えば現実の社会で、学校でいじめられて自殺してしまう人がいます。これは他の人から、個人を否定されて、ああそうなんだと理解してしまうからです。つまり個人を否定するという点においてこの二つは同義なのです。しかし多くの人は死ねません。そうか私はだめなんだと思うのが、せいぜいです。もしくは自分の生きていることに疑問を持つ、それが冒頭の朝子の状態なのです。

 


さて朝子は他の人から個人を否定され、自らも自分を否定したとなっては、この場所に居続けることは出来ません。新たな居場所が必要になります。ですから、パソコンがあるのは、朝子の家ではなく、かずよしの家なのです。新しい社会が存在するのは今まで朝子が存在していた場所では駄目なのです。そこで新しい名前を手に入れ、行動を開始します。しかし何と言っても、かずよしと共同の名前。あまり上手くいくとも思えません。実際、チャットで聖璽に本性を見破られ綻びが見え始めます。そして、母に学校に行っていないことが、次いでかずよしの母に、部屋に出入りしていたことがばれて、新しい社会は崩壊します。社会は崩壊してしまったのですから、もう元の場所に戻るしか道はありません。ネットオークションで失った物を(もちろん同じ物じゃありませんが)取り戻そうとするのです。

 


この作品、深読みしようとするととても深いです。文章も上手ですし、これが「女子高生が勢いにまかせて書いた、文体の乱れた軽い作品」とされてしまうのはとても残念です。作品も短いと言うより、絞られているという印象。ガリガリというよりはスマートという感じ。すごい才能だと思います。(2008.11.23)

 

 

以前読んだときはいじめがあったと思ったが、いまは重要なのはいじめの有無ではなく疎外感や孤独感の有無だと思う。

 

 

終活さながらに部屋の中身を捨て始める朝子の姿にまとわりつく悲壮感や寂寥感が印象的だ。この空気感を中篇にまとめた才能は見事だとやはり思う。(2017.11.24)

*1:その後またよしもとばななさんに