・形式


 小説、長篇、学園、ミステリー


 



・あらすじ


 維新、全開!これぞ「きみとぼく」本格ミステリのすべて!
ミステリの伝言ゲームは続いている!


 


禁じられた一線を現在進行形で踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻(ひつうちさまとき)と櫃内夜月(よるつき)。その友人、迎槻箱彦(むかえづきはこひこ)と琴原りりす。



彼らの世界は学園内で起こった密室殺人事件によって決定的にひびわれていく……。



様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫(びょういんざかくろねこ)とともに事件の解決に乗り出すが?『メフィスト』に一挙掲載され絶賛を浴びた「体験版」に解決編を加えた「完全版」。


 



・収録話数


もんだい編


たんてい編


かいとう編


えんでぃんぐ


 



・初出


もんだい編 小説現代臨時増刊号メフィスト、2003年5月号


たんてい編 書き下ろし


かいとう編 書き下ろし


えんでぃんぐ 書き下ろし


 


 


・刊行情報


きみとぼくの壊れた世界(講談社ノベルス)


2003年11月5日



きみとぼくの壊れた世界(講談社BOXピース)


2007年10月


 


 


・読了日


2008年12月22日


 



・読了媒体


きみとぼくの壊れた世界(講談社ノベルス)


第一刷


 



・感想メモ(※内容についての記述有り)


この著者特有と言える、登場人物達の奇抜な行動。そして、とんでもない命名。


 



命名はまだ本作は理解できるほうでしょう。様刻(→常に論理的、理性的を気取る主人公)、夜月(→容姿は整っているのにも関わらず控えめ)、病院坂黒猫(→保健室にこもる小柄な女子)と、説明はつきます。命名すら言葉遊びに徹した「戯言」シリーズに比べると、まだ納得できます。


 


テーマは?



さて、この作品はミステリという形式をとっています。ですが、読み終わってみると、頭に強く残っているのは主人公が登場人物達と繰り広げる「会話」です。


 



なので、ミステリーというよりはエンターテイメント、相当広く言えば一種の哲学書、思想書、もしくは純文学とも言えるような気もしないこともありません。


 



とすれば、浅田次郎氏が山本周五郎賞の選考で伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」を評して言った言葉の中にもあるように、文学には不可欠の要素であると千年も信じ続けられてきた、主題性、思想、哲学があるはずなのです。


 



そう考えると、一番目をつけやすいのが主人公とその妹の関係です。


 


そんなに珍しいことでもないのか・・・?



同じように兄弟間の恋愛(っていうのも少し違うかもしれません)を取り扱った作品として、最近では「僕は妹に恋をする」がありました。漫画は読んだことはありませんが、恐ろしく本編を省略したであろう小説版を読みました。


 



また歴史上で言うと、かの聖徳太子の両親、用明天皇と穴穂部間人皇女がその例に当てはまるようです。(ただし、母は異なる)


 



しかし、明らかに一線を越えてしまった先の例とは異なり、この二人は相当怪しいですが、まだ「クロ」とは言えません。「灰色」ぐらいです。


 



シリーズであることを考えてもこの件は保留したほうが良さそうです。


 


喪失と「ぼく」



ところで、本書の後書には、喪失という言葉が『』つきも含めて8回も出てきます。また、後書によれば本書は「高校生達の物語」であると同時に、「喪失の物語」らしいのです。


 



少し話が飛びますが、西尾維新は「春樹チルドレン」と呼ばれる作家陣の一人です。村上春樹と共に論じられる作家は多いですが、その中に庄司薫が含まれるでしょう。そしてその庄司薫のデビュー作が「喪失」なのです。


 



薫くんシリーズのヒロイン、由美ちゃんは「舌かんで死んじゃいたい」という名言をときたま口にして薫くんとの会話を止めてしまいます。もちろんこれは本当に舌をかんで死にたいわけではなく、不満を表す言葉です。


 



一方、本作のヒロイン、病院坂黒猫は「分からないことがあるのなら死んだ方がマシだ」と言って飛び降ります。


 



しかし、このときは主人公、様刻に助けられます。様刻はなかなかにクールな人物として書かれていますが、このときばかりは熱く行動します。


 



薫くんもかなりクールな印象をうけますが、由美ちゃんが本当に「舌かんで死んじゃいたい」という状況に陥ったらどうするのでしょうか。


 



『白鳥の歌なんか聞こえない』のように、由美ちゃんに、「だめだよ」、と言って、でも声にならない声で「好きなんだ」と言うという、まぁ分からないこともないし実は誠実な行動かも知れないけどももっとなんかしてやれないのかよ、というような、誠実とも臆病とも優柔とも本当の優しさともとれる行動をするのでしょうか。(2008.12.29)



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「秋の田の穂向きの寄れること寄りに君に寄りなな事痛かりとも」
                       (「万葉集」 但馬皇女)



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「・・・そうそう、穂積皇子と但馬皇女のロマンスも見逃さないでっ。二人は異母兄妹で、但馬皇女には高市皇子という、父親ほどに年上の夫があったけれど、禁じられた恋は、一途に燃え上がったのよ。
 万葉集に収められている但馬皇女の歌は、どれも穂積皇子への恋を詠ったものよ。あまりの激しさに、口に入れたとたん喉や頭がカァッと熱くなってしまうほどよ。
『秋の田の穂向きの寄れること寄りに君に寄りなな事痛かりとも』
ー秋の田の稲穂が、風で一方にたなびくように、たとえ人から、どんなにひどく噂されても、あなたに寄り添っていたいという意味よ。
 そんな恋を但馬はしたの。穂積皇子が後年、よく口ずさんでいたという”恋の奴がつかみかかってくる”ようなー秘めることも、逃れることもできないーどうしようもない恋をね。
 早くに亡くなってしまった但馬の死を哀しむ穂積の歌も、万葉集に収録されているわ。ぜひ読んで、涙して!」
 遠子先輩は、川の水が流れるように語り続けている。頬が紅潮し、目がうるんでいて、ちょっと色っぽい。
          (『”文学少女”と恋する挿話集 Ⅰ』 野村美月)



(2008.12.29)