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流れ星が消えないうちに /橋本紡

・形式

小説、長篇、恋愛、青春

 


・あらすじ

忘れない、忘れられない。あの笑顔を。一緒に過ごした時間の輝きを。そして流れ星にかけた願いを。高校で出会った、加地君と巧君と奈緒子。けれど突然の事故が、恋人同士だった奈緒子と加地君を、永遠に引き離した。加地君の思い出を抱きしめて離さない奈緒子に、巧君はそっと手を差し伸べるが……。悲しみの果てで向かい合う心と心。せつなさあふれる、恋愛小説の新しい名作。


大切な誰かを失っても、それで残された人の人生まで終わってしまうわけではありません。残された人間は、どうしようもなく生きてしまう。いつか他の人を好きになることもあるでしょう。失ってしまったもののことを少しずつ忘れていきもするでしょう。そうして生を長らえるのは、はたして正しいことなのか――。自問しつつ、やはり人は生きていかねばなりません。たとえ何かを失っても、それを認めて乗り越えたところに新しい自分がいることを、この小説を読むことでちょっとでも信じてもらえたら嬉しいです。

 


・収録話数

 


・初出

 


・刊行情報

流れ星が消えないうちに(新潮社)

2006年2月20日

 

流れ星が消えないうちに(新潮文庫)

2008年6月30日

 


・受賞歴、ランキング

 


・読了日

 


・読了媒体

 流れ星が消えないうちに(新潮社)

 


・感想メモ

恋人の死もしくは、大切な人の死というのは、前作『半分の月がのぼる空』と同様の設定であり、テーマであるんですが、異なるのはその死が過去のものなのか未来のことなのかという点です。前作は死は予測される未来であったのに対し、本作は過去の、不変のものなのです。

 


彼の死の直後に大きな衝撃を受けていた奈緒子も、事故から1年半が過ぎ、新たな恋人をつくっています。しかし、奈緒子は依然として立ち止まってしまっています。彼女は自分の足で歩き続けなければいけないことも悟っています。それでも彼女は恋人・加地の思い出を抱え続けています。

 


彼が死んでしまった後、彼女は玄関でしか寝られなくなってしまいます。玄関は人が入ってくる場所、そして出ていく場所。留まる場所ではありません。通りすぎて行く場所であるのです。実際に失恋しただけ、恋人を永遠に失ったわけではない、妹の絵里は一晩で玄関を去りました。そして、復縁へと向かっています。

 


仲が悪くなってしまったのは、何も彼らだけではありません。奈緒子の両親もそうであり、父親は奈緒子の家に「家出」してきてしまっています。そこで、考えるよりもまず行動する事を提案され、実践します。これは確実に一歩を踏み出したことであるのですが、妹とは違い、復縁には向かっていません。それは、父が玄関で過ごしていない、つまりは新しい一歩を踏み出しても、立ち止まって自分を見ていないからではないでしょうか。

 


本作と前作の『半分の月がのぼる空』に共通しているのは「格好悪さ」です。それらの行動は、率直な行動であり、真摯で素直な姿勢によるものですが、読者である私たちはそれを「格好悪い」と感じてしまいます。しかしその登場人物に共感するとその「格好悪さ」は「格好良い」に変貌するのです。これが本作の魅力であり、著者の魅力です。

 


もう一人の主人公である巧は、加地と奈緒子のそばにいて、傍観者であろうと思っています。恋人同士を観ているのは、羨ましかろうが妬ましかろうが、気持ちの良いものであることに違いはないからでしょう。加地の死でその決心は崩れ、自らは奈緒子の恋人となります。彼女が自分と加地を無意識にも比べてしまうのは理解しているし、彼女の中では、いまだに加地のほうに切ない思いが強いかもしれません。それでも彼は全てを飲み込んで、彼女と付き合おうとしています。

 


奈緒子が作中にて泣くこと、それは自らをそして現実を客観的に見れたということであると思います。彼を懐かしみ、形見の品となってしまった品々を見て扱うことで、彼を過去の物語にしたのです。僕は変わろうとしている本作の登場人物達に敬意さえ抱くのです。(2008.09.01)