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とある飛空士への追憶 /犬村小六

・形式

小説、長篇、ファンタジー、ボーイ・ミーツ・ガール

 


・あらすじ

「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。
次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!?
...圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる!
蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。

 


・収録話数

 


・初出

書き下ろし

 


・刊行情報

とある飛空士への追憶(ガガガ文庫)

2008年2月20日

 

とある飛空士への追憶(小学館)

2011年8月9日

 


・受賞歴、ランキング

2008年Amazonエディターランキング1位

 

2008年Amazon売り上げランキング6位

 

2009年大学読書人大賞2位

 


・読了日

2008年5月27日

 


・読了媒体

とある飛空士への追憶(ガガガ文庫)

 


・感想メモ

※ネタバレ有一部反転。

 

そこに至るまでの苦労や、努力を考えたとしても、自分の好きなことを職業としている人はどれだけ幸せなのだろうとつくづく思います。建築家、画家、小説家、ミュージシャン、など自分の趣味を仕事にまで昇華できた方々は、何の変哲もない会社に勤めたいした達成感も得ることができない大勢と比べればとても充実していることでしょう。いや何もこんな一部の人だけではありません、乗り物が好きで整備士になった者、志を持って教師になった者、困っている人を助けたいと弁護士や検察官になった者も同様です。

 


大瀑布を境として西にある神聖レヴァーム皇国と東に国家を構える帝政天ツ上の二大国は敵対していました。帝政天ツ上側にある、主人公、シャルルは両勢力が入り交じる緩衝地域、サン・マルティアの貧民窟で息絶えようとしていました。しかし、神父に助けられ仕事で飛行場と関係を持つようになり、操縦を覚え戦闘機の操縦士となります。カースト制度さながらに身分制度が細分化されたこの世界において最底辺である彼は地上で迫害されることや、仲間達が身分を気にしないこともあり、しだいに空を飛ぶことを愛するようになります。

 


そんな両国の関係は悪化し戦争への道を突き進んでいく中で、離れ小島のサン・マルティアは苦境に立たされることになります。戦争が長引くにつれ、徐々に制空権は奪われていき物資や人員も満足でないようになっていってしまいます。皇子の許嫁である令嬢がいる公爵家が敵襲され、公爵が殺害される事件も発生します。本国は報復と令嬢を救出するために艦隊が派遣されるが、失敗に終わってしまうのです。

 


こんな非常事態の中、制空権が完全に奪われる直前にシャルルに一つの命令が出されます。


「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」


翔破といっても一日のことではなく、六日、七日ほどのことで、海上で燃料を補給し、また機体の整備も行わなければいけません。ましてや偵察機であって、銃は後部座席に威嚇用に一丁付いているだけです。ひょんなことから行程の情報も敵方に漏れてしまい、前方には敵の艦隊と、性能面で劣ってしまっている最新鋭戦闘機「真電」が待ち受けているという危機的状況です。大方のパイロットは無理だと諦めるか、撃墜されてしまうでしょう。それでもシャルルは、

 

───助けられるなら、助けたい。            
                                             
 ドブネズミのように生きてきて、ゴミクズのように空に散る運命なら、
 せめて一度くらい、胸を張って誇ることのできる仕事をやり遂げてみたい。 
                                             
 幼い僕を救ってくれたファナ・デル・モラルをこの苦境から助け出したなら、 
 自分のしたことを誇りに思えるのではないだろうか。 
                     
 いつかどこかの空で炎を噴き上げ散華するとき、               
 僕の辿ってきた道を後悔しないで済むのではないだろうか。

 

と、思い、作戦に身を投じることになります。

 


以後、大きく空中戦とその間の二人の交流の二つが描かれていきます。

 


身分は最底辺の流民出身のシャルル、次期王妃のファナ。平和な治世ならば言葉を交わすこともなかった二人が、作戦開始前に「何を尋ねられてもはい、か、いいえ、で答えるように」と命じられていた二人が、どのように心を通わせていくか、その様子を見守ってもらいたいものです。

 


読んでいると、筆者の「諦めるな」という声が聞こえてくるようです。10歳で空腹ゆえ道端に倒れながらも眼上を航行する飛行船に憧れ手を伸ばしたとき、なにより本編で性能に勝る真電の大群に追われたとき、そして終盤二人が別れ読者の期待を裏切ったとき、諦めていればあるいは諦めていなければその先にある将来は変わっていただろうから。仕方のない理由があって諦めなければならないこともありますが、同時にたいした理由もなく少しの努力も見せないで、諦めてしまうことに抵抗をしたかったのでしょう。

 


最後にシャルルがとった決断には賛否両論があることでしょう。けれどそれは、彼が覚悟を持ってしたことなのだから仕方のないことなのです。僕は二人の前途を祝したかったですけど。

 


多くのレビューサイトで好評価を得ている本作で、少ししゃべり方がつくりものっぽいことを思っても、良作なのは間違いありません。

 


映像化*1を望む声も多く、僕も同様です。空戦の場面は文章の限界を感じざるを得ないし、迫力や、文章でも伝えにくい何ともいえない雰囲気を感じさせることができます。(2008.05.31)

*1:当時はまだ映像化されていませんでした。