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となり町戦争 /三崎亜記    

・形式

小説

 


・あらすじ

現代的戦争の恐怖。
ある日、突然に始まった隣接する町同士の戦争。公共事業として戦争が遂行され、見えない死者は増え続ける。現代の戦争の狂気を描く傑作。小説すばる新人賞受賞作品。

 


・収録話数

 


・初出

小説すばる、2004年12月号

 


・受賞歴、ランキング

第17回小説すばる新人賞(小説すばる、2004年12月号)

 

阿刀田高

 

五木寛之

 

井上ひさし

 

北方謙三

 

宮部みゆき

 

 

第18回三島由紀夫賞候補(新潮、2005年7月号)

 

島田雅彦

 

高樹のぶ子

 

筒井康隆

 

福田和也

 

宮本輝

 

 

第133回直木三十五賞候補(オール讀物、2005年9月号)

 

阿刀田高△

「ユニークな味わいを含んで、味わい深い。しかし、どことなくキャリアの不足、地力の不足を感じないでもない。次の機会を待つのが適切と思われた。」

 

五木寛之◎

「私はこの作品をつよく推したが、「次作を待ちたい」という意見にしたがわざるをえなかった。これが傑作であるという考えは変らない。しかし、この書き手にはたしてこれを超える次作があるのだろうか。」

 

井上ひさし○ 

「作中に、「公務によるラブシーン」が現れるが、この場面の透徹した美しさは、作者のすぐれた資質を証し立てている。」

 

北方謙三△  

「才気は認める。その斬新さも評価するが、もう一作待ちたいという思いが、どうしても拭いきれなかった。」

 

津本陽△ 

「他の国では、戦争の現実が知られている。日本でのみ若者にうけいれられる物語か。」

 

林真理子× 
「大まじめで、ありもしないことが起こるありさまを抑えた筆で描く才気は買うが、授賞ということになるとためらってしまう。」

 

平岩弓枝×

「着想は面白いし、且つ怖しいが、着想を生かし切れなかった。」

 

宮城谷昌光

渡辺淳一


・読了日

2008年2月24日

 


・読了媒体

となり町戦争(集英社)

 


・感想メモ

※ネタバレ有一部反転

 

本作は、戦争を公共事業として扱った意欲作である。主人公は、ある日役所の広報で開戦を知る。そして、戦争に参加することになる。とはいえ、銃火器を使用した実戦に参加するというわけではない。偵察業務を行うのみである。

 


本作で行われる戦争では最終的には250名ほどの人が戦死してしまうらしいのだが、実戦を描かず、広報でその状況を知らせるのみというやり方は、偵察員である主人公の視点からすれば非常に現実的であると言える。淡々とした進行だが、最後の主人公と香西さんが話すシーンでは、主人公が感じた痛みを多くの読者も感じたことだろう。

 


本作では、一つの矛盾が描かれている。戦争=戦うこと=悪としている社会。そんな社会がつくった映画や物語の中で「正義」は武力を持って相手を倒している。

 


「これが戦争だ」という一点で共通した2人。彼らにとって戦争とは、何だったのだろうか。到底受け入れることのできないものだったのか。抵抗できないものだったのか。自分から何かを奪っていくものだったのだろうか。それは戦争を実体験していない著者なりに、言いたいことがあったのだろうか。「他の国では、戦争の現実が知られている。日本でのみ若者にうけいれられる物語か。」という津本陽の選評に頷いた。

 


本作を通して日本社会に警鐘を鳴らしたかったのかもしれない。本作における戦争が、侵攻戦争か、防衛だったのかは分からない。しかしそのどちらにしても、市民はただ一方的にその事実のみを告げられ協力させられる。作中ではあくまで公共事業としての扱いに留まっているため、協力は強制ではなく、任意によるものである。しかし実際はそんなことはいっていられない。

 


主人公は戦争に従事したのだろうか。実際にも一兵士からすれば全容を知れないことは明白である。

(2008.02.24)

 

本作は一貫して一視点から戦争を描いている。個人の視点からは決して戦争の全体像を見ることはできない。そもそもその正しい全体像を知る手段があるのかすらはっきりとはしない。

 

徹底的に一視点から戦争を描き、実像がよくわからないまま小説は進行していく。だが不思議と納得させられる小説だった。分からないまま進んで行くことが実は日常生活にありふれているからかもしれない。(2017.10.27)