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キッドナップ・ツアー /角田光代

・形式

小説、長篇

 


・あらすじ

夏休みになり小学校5年生のハルは失踪中の父に誘拐される。父はハルを人質にお母さんと何かの取引をするが、ハルは久々に会った父のユウカイに心を躍らせ、様々な場所へ泊まり歩くうちに父と心を通わせていく。

 

私はおとうさんにユウカイ(キッドナップ)された! 私の夏休みはどうなっちゃうの!?
五年生の夏休みの第一日目、私はユウカイ(=キッドナップ)された。犯人は二か月前から家にいなくなっていたおとうさん。だらしなくて、情けなくて、お金もない。そんなおとうさんに連れ出されて、私の夏休みは一体どうなっちゃうの? 海水浴に肝試し、キャンプに自転車泥棒。ちょっとクールな女の子ハルと、ろくでもない父親の、ひと夏のユウカイ旅行。私たちのための夏休み小説。


私を見下ろすお父さんの背後には、車輪のぴかぴか光るいろんなタイプの自転車があった。きっとこの人は、私がいなかったら、なんの罪悪感もなく鍵のかかっていない自転車を拝借しちゃうんだろうな、と私は思った。本当のことを言うと、私はそう思うことがうれしかった。甲斐性ない。だらしない。お金ない。3N(ナイ)父親と、ハルとの、ひと夏のユウカイ旅行。新進文芸作家の描く、あたらしい児童文学。

 


・収録話数

 


・初出

 


・受賞歴、ランキング

第46回産経児童出版文化賞フジテレビ賞

 

第22回路傍の石文学賞

 


・読了日

 


・読了媒体

キッドナップ・ツアー(新潮文庫)

 


・感想メモ

※ネタバレ有一部反転。

 

tourという英単語の意味はご存じでしょう。旅行です。では、kidnapという英単語の意味はご存じでしょうか。誘拐です。本作の題はいわば「誘拐旅行」なのです。

 


だが、決して物騒なことではありません。主人公のハル(女子)を誘拐するのは、実の父親なのです。そして、学生の貧乏旅行のような小旅行を2人で行います。海へ行き、宿坊して肝試しをします。そして、バーベキューをして、拾ったテントでキャンプをし、自転車泥棒をします。そんな物語です。

 


なぜ、父は実の娘のことを「あんた」と呼ぶのでしょうか。父の仕事は忙しい。そのため、ほとんど会えないらしくハルは父と2人になると緊張してしまいます。私は両親が離婚してしまうのではないか(もしくは、すでに離婚しているのか)と思っているのですが、もしそうだとすると父は思い出づくりのために娘を誘拐したのでしょう。大人と子どもの狭間にいて、もう今後そのようなことはできないだろう娘を。「あんた」というのはもう父と娘じゃないんだよ、ということを暗示しているのかもしれません。だから、最後ハルだけを家に帰らせ自分はただ手を振っていたのです。そんな彼に「このまま逃げよう。」と言った娘の優しさはどんなに身にしみたでしょうか。そんな父が娘の解放の代わりに求めたのは、時間であったはずです。共に過ごす時間。

 


本作に登場する人たちは皆親切な人ばかりです。それは、なにより父と娘の性格や心情を表しているのでしょう。こんなことを考えるとなんだか心がぽかぽかしてきます。

 


なぜハルは汚くなったと感じたのか?
これは精神的に成長したということを言っていると思います。以前は人見知りの感があり、話しかけられても話すことができなかったハルが他人に話しかけることができるようになったという点でもわかります。もちろん、ただ日に焼けてたくましく見えるようになったという意味でもあるでしょう。

 


この小説では登場人物の年齢や関係があまり描かれていません。読者なりの親子像を描いて読んでもらいたいという、著者の思惑を感じます。(2008.02.12)