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空中ブランコ /奥田英朗

・形式

小説、連作短篇、ユーモア

 


・あらすじ

伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?
直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。

サーカスの花形、空中ブランコでフライヤーを務める公平は最近失敗ばかり、原因は自分にあるらしい。困り果てて伊良部を訪ねたが、伊良部が自分も空中ブランコに乗ってみたいと言ってきかず……(「空中ブランコ」)
ほかに「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」を収録、直木賞を受賞した絶好調シリーズ第2弾!

 


・収録話数

空中ブランコ
ハリネズミ
義父のヅラ(教授のヅラ)
ホットコーナー
女流作家

 


・初出

空中ブランコ      オール讀物、2003年1月号
ハリネズミ       オール讀物、2003年7月号
義父のヅラ(教授のヅラ)オール讀物、2003年10月号
ホットコーナー     オール讀物、2003年4月号
女流作家        オール讀物、2004年1月号

 


・受賞歴、ランキング

第131回直木三十五賞(オール讀物、2004年9月号)

 

阿刀田高〇

「たまらなくおかしい短編連作集だ。と同時にユーモア小説を書くむつかしさが随所に見え隠れしている。笑いながらも人生を響きあうところがあって優れていると思ったが、ほかの委員からは「そういう小賢しさはむしろうるさい」という指摘もあり、つくづく、――笑いの文学は厄介だな――と考えた。」

 

五木寛之△ 

「文句なしにおもしろい連作である。問題は人間の内面世界は、もっと奇怪で難解なものではないか、と、ふと感じさせられる点だ。」


井上ひさし◎  

「物語構造そのものがすばらしい発明であるが、今回、作者はこの構造に絢爛たる笑いの花を満開に咲かせた。とりわけ、「ハリネズミ」と「義父のヅラ」には、さんざん笑ったあとに人生の真実にふれたような感動をおぼえ、前作同様に強く推した。」

 

北方謙三〇
「絶品である。前作と較べて、精神科医が名医に成長していて、荒唐無稽の中から顔を出す、微妙な暗黒性に欠けると思った。この医師の成長が、常識性のリアリズムへの後退というふうにも私には読めて、そこが第一に推すのをためらう要因になった。」

 

田辺聖子〇 

「ユーモア小説は、文体が緊まっていないと効力を失うが、その点、的確で硬質の、そっけない文体がまことに適切、ユーモアが際立ってよかった。」

 

津本陽◎  

「ユーモラスな主人公を動かしてゆく愉快なともいえる作品であるのに、この切実感と迫力はどこから出てくるのだろうかと思った。受賞にふさわしい成功作である。」

 

林真理子◎ 

「この方のユーモアの才能というのは全くすごい。一見無造作なようでいて、緻密な計算がなされている。作者の力量にひたすら感心するばかりだ。」

 

平岩弓枝◎  

「作者が苦労なしにこの五篇を書いたとは考えていないが、よくも悪くも現代の最前線で脚光を浴びている人間をひっぱり出して伊良部先生の前へおいたのは作者の凄腕であり、しかも成功している。」

 

宮城谷昌光◎  

「私のなかでは「イン・ザ・プール」も「マドンナ」も、奥田英朗氏の作品は、直木賞を受賞するにふさわしいものであったので、今回、「空中ブランコ」が候補作品として眼前にあらわれたとき、――まだ奥田氏は受賞していなかったのか。と、倦怠をともなったおどろきをおぼえた。」

 

渡辺淳一〇 
「前作のドタバタ的なくさい部分が抜けて、内容も多彩になり、安心して読めた。欲をいえば、名探偵をもってしても解決しないような病気が登場すると、さらに小説の深味がでただろう。」

 


・読了日

2008年2月6日

 


・読了媒体

空中ブランコ(文藝春秋)

 


・感想メモ

精神科というと、「怖そう」などと思ったり、嫌悪感を抱く人が多いでしょう。ですが本作に登場する伊良部医師は子どもじみたというか、のんきな人物なんです。患者を「いらっしゃーい」という声と共にむかえる彼は、以前小児科にいたのですが、「子どもと本気で喧嘩してしまう」という何とも情けない理由で精神科医になったという経歴をもっています。

 


そんな彼だが、精神科医としては一流なんです。

 


患者たちは一様になにかしらの悩みをかかえています。暴投してしまうようになったプロ野球選手、上手く飛べなくなった空中ブランコのエース、先端恐怖症の極道。

 


彼はそんな患者たちと接していくときに、実際に空中ブランコを飛び(体重は100キロぐらいなのに)、キャッチボールをし、極道に注射をさすのです。これらの行為は患者を治したいという気持ちからではなく、「患者の症状を楽しむ」という医者としてはあってほしくない欲求からの行為です。

 


でもそこには、患者と真剣に向き合う姿勢があるのです。そして結果として、患者たちは異常を治し彼の元を去っていきます。

 


この作品を全体的には楽しめたのですが、1つ不満な点があるとすれば、それは患者がプロ野球選手や、作家、サーカス団のエース、医師などある程度認められている存在ばかりだったということです。(極道もいるが・・・)前作「イン・ザ・プール」では、患者は、高校生や、会社員、売れないモデルなどでした。本作のような患者たちでなければ書けない特有の悩みもあると思いますが、私は前作のほうがリアリティにあふれ、より楽しく読めました。本作は、いい意味でも悪い意味でも万人うけする内容になっています。

 


長々と述べてしまいましたが、前述の通りこの作品が楽しめたことに変わりはありません。(2008.02.06)