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リトル・バイ・リトル /島本理生

・形式

小説、長篇

 


・あらすじ

第25回野間文芸新人賞受賞作品

わずかずつ、かすかな輪郭を帯びてゆく日々。

あれから私はどれくらい成長したのだろうとふいに疑わしい気持ちになって、その後にゆっくりと不安が押し寄せてきた。あのときよりも、もっとずっと前から時間の止まっている場所が自分の中にあるような気がした。

ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。家族は、母、小学校2年生の異父妹の女3人。習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、2番目の父――。「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた、第25回野間文芸新人賞受賞作。

 

 

あらすじ(詳細につき反転しています)

母が深酒をして朝帰りをした。それを聞いた娘、橘ふみは混沌しつつも妹のユウの面倒を見なければならないと席を立つ。翌日、いつものように習字教室に出向くふみ。講師の柳さんに心配されるも、ふみはなにごともなかったかのように振る舞う。ティッシュ配りに勤しむふみ、そのふみの元に新しい職場が決まったとメールを送る母親、まだ幼いユウを挟んだ3人は親子とも3姉妹ともいえるような関係のつつましい生活をおくっていた。
母は新しい職場の客の高校生市倉周を娘と引き合わせようとする、それをやんわり拒否したふみだが、首を寝違えたふみは母親の働く整骨院に向かうこととなった。ふみが整骨院に到着、母親がちょうど周に治癒を施しているところであり、あらためて周を紹介されたふみは話の流れから周のキックボクシングの試合を見に行くということになる。その一方でふみ暗い過去の出来事の中にある幸福を手繰り寄せるような思いに引っ張られる。
「勝てなくてすいません」と謝る周、周の友人たちが先に帰りふみは周とふたりきりとなる。ぎこちない会話を割るように現れた女は周に「この女がお前の彼女か?」と訪ねる、その後の口の応酬からその女は周の姉とわかる。周の姉は周のツメの甘さを指摘してその場を去り、ふみと周再びぎこちない会話のキャッチボールをすることとなる。その後ふらりと習字教室に行ったふみは、柳さんに楽しそうな顔をしていると指摘される。
MDコンポとウォークマンを買いに行くという周に付き合い秋葉原に出向いたふみ。その買い物の最中、エアガンの置いてある店に立ち寄る。商品を見て「人を撃つ物」と言うふみと、話の顛末から激怒する周。ふみは最初の父親のことを振り返りながら周を落ち着かせるため食事に行くことを提案してその場をしのぐと、周からそのまま帰らず浅草に足を伸ばそうと提案される。そして浅草を満喫したふたりはまたデートしようと約束する。
ある日、2番目の父親の誘いで食事に行くことになったが、ふみはひとり壁を作りその席を一方的にはなれる。ひとり家路についたふみは、周に電話をかけ、ふたりで居酒屋におもむくが、そこに周の姉が現れまたも周のことをけなし去って行き、そしてふたりはおとなしく家に帰ることにする。家に帰ると母親が泥酔して玄関に座っていて、ふみの義父は子育てとは無縁、自分はいつまで生活のため働き続けるのかとグダをまかれる。その言葉のなかにユウの父親だから養父に会うんだという言葉を見つけたふみはふと自分の父親のことを思う。
ふみは、借りたままにしておことうとした本を返却するため久々に高校へ出向き、校舎のなかで高校時代の思い出に浸る。家に戻ると母がユウを保育園に迎えに行く所で再び出かけることとなる。保育園でユウを待っていると、乱暴な男の子によりユウが突き飛ばされるところに出くわし、怒る母は男の子に体当たりをくらわし騒ぎとなる。その一方で柳さんの奥さんが急に亡くなり葬式に向かうことになり、結果的に周とのデートをすっぽかすことになってしまうのである。ふみは雨に打たれる周に謝り部屋に招き入れる。そして周は会話の中でふみの最初の父親の行った虐待について怒りをあらわにするが、ふみは「分かっているから」と言い切る。周はふみに「あなたはなんでも自分の中だけでかんかあている」と指摘する。
後日、バイト先で失敗して落ち込んでいたふみは以前行った居酒屋で飲んでいるという周の誘いに乗って夜の街に出かける。そこで知り合った井坂と先に帰ることにしたふみは、駅までの間に井坂会話して、周とは付き合っていないとこぼすが井坂に「本気でそう思っているのか?」と聞き返される。そして井坂の冗談にあわてた周がふみの元にやって来る。そしてふたりは素直に家に帰らず朝を迎える。
ふみの誕生日、母親とふたり池袋に向かう。ふみは最初の父親のことを思うようなことを口にするが、母は6年前の真相をふみに告げ、あの人に何を求めても無駄であると諭す、そしてふみは自分の中で納得する。
所要で周の家をたずねたふみは。母たちが旅行に行く日にうちに泊まりに来るよう周を誘うが周の姉に割っては入られそうになる。そして周の姉から周の中学生時代のことを聞く。後日、周は磯アイナノ持参でふみの部屋を訪れる。夜の井の頭公園を訪れるふたり、「怖い」と言えないというふみ。言ってしまえばいいという周。そして自転車を盗まれたふみは、気の遠くなりそうなことを考えながら夜のの街を歩き家路に付く。

 


・収録話数

 


・初出

群像、2002年11月号

 


・受賞歴、ランキング

第128回芥川龍之介賞候補(文藝春秋、2003年3月号)

 

池澤夏樹×

「あまりに淡泊。しかしそれは作者の歳を考えれば当然のことだから、育つ苦労を経た上でいつかまた書いてください。」

 

石原慎太郎× 

「青春なる不定形な年代の、それなるが故の気味悪さなどどこにもなく、PTAや教育委員会が喜びそうな話立てとしかいいようない。」

 

黒井千次△

「人と人との距離感やバランス感覚に優れたものがあるが、そこを突き破っていくもう一つの力が欲しかった。」

 

河野多恵子× 

「素直さが取り得という、消極的な取り得が見られるに留まっている。」

 

高樹のぶ子×

「その素直な感性に好感を持ったが、受賞作にするには幼い。やはり力不足は否めず、今後の成長に期待することにしよう。」

 

古井由吉 

 

三浦哲郎×

「なんでもすらすら書けてしまうのはむしろ危険なことだと知ってもらいたい。」

 

宮本輝×

「十九歳とは思えない穏かさと行儀の良さを感じさせる。逆にそのことが作品を一味も二味も足りなくさせている。」


村上龍△

「好感を持った。だが受賞作に推すためには好感だけでは足りない。」

 

 

第25回野間文芸新人賞(群像、2004年1月号)

 

奥泉光

 

川村湊

 

佐伯一麦

 

笙野頼子

 

久間十義

 

山田詠美

 


・読了日

2008年4月14日

 


・読了媒体

リトル・バイ・リトル(講談社文庫)

 


・感想メモ

特に面白いかと聞かれれば素直に首を縦に振るわけでもない。でもこの本にはどこか光るところがあるような気がする。(2008.07.14)