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きことわ /朝吹真理子

・形式

小説、長篇

 


・あらすじ

貴子(きこ)と永遠子(とわこ)。葉山の別荘で、同じ時間を過ごしたふたりの少女。最後に会ったのは、夏だった……。25年後、別荘の解体をきっかけに、ふたりは再会する。ときにかみ合い、ときに食い違う、思い出。境がゆらぐ現在、過去、夢。記憶は縺れ、時間は混ざり、言葉は解けていく――。やわらかな文章で紡がれる、曖昧で、しかし強かな世界のかたち。小説の愉悦に満ちた、芥川賞受賞作。

 


・収録話数

 


・初出

新潮、2010年9月号

 


・受賞歴、ランキング

第144回芥川龍之介賞(文藝春秋、2011年3月号)

 

池澤夏樹◎

「抽象的なものを具体的に語るのが小説だとすれば、これは希有な成功例と言うことができる。いくつもの時や光景や感情がアニメのセルのような透明な素材に描かれ、それを何枚も重ねて透かし見るような、しかもその何枚もの間に適切な間隔がおかれて空気遠近法の効果があるような、見事な構成。」

 

石原慎太郎×

「読みながらすぐにプルーストを想起したが、人間の意識に身体性がないとはいわないが、プルーストやジョイスが苦手な私にはいささか冗漫、退屈の感が否めなかった。」

 

小川洋子×

「『きことわ』の人物たちにはまるで質量がないかのようだ。」

 

川上弘美△

「読む快楽を十分に感じながら読みつつ、わたしはいくつかの表現に首をかしげました。一つ一つの言葉の粒だちによって何かを表現しようとする場合には、「意匠としての言葉のゆらぎ」にあらざる「単なる表現の揺れ」は、ごくオーソドックスな小説よりも遥かに大きな疵となってしまうのではないかと思うのです。」

 

黒井千次〇

「緻密に計算されているかに見える場面の重ね合わせの根元にあるのは、論理的思考であるというより、むしろ精神の生理的運動の結果であるのかもしれない、と思わせるところがある。」

 

島田雅彦△  

「彼女の文章表現は五官の全てによく連動してもいる。この作品はその技術、才能の紛れもない証拠ではあるけれども、まだ彼女自身が真に書くべき素材、とらえどころのない夢を生け捕りにしたり、忘れられそうな歴史と格闘する困難には出会っていない、と「美女に優しく、野郎に厳しい」と思われがちな私はいいたい。」


高樹のぶ子◎

「触覚、味覚、聴覚、嗅覚、そして視覚を、間断なく刺激する作品、この受感の鋭さは天性の資質だ。文章に韻律というかリズムがあり、これも計算されたというより、作者の体内から出てくるもののように感じた。」

 

宮本輝◎

「難易度の高い絵画的手法を小説の世界でやっておけた二十六歳の才能はたいしたものだと思う。」

 

村上龍△

「相応の高い技術で書かれていて、洗練されているが、「伝えたいこと」が曖昧であり、非常に悪く言えば、「陳腐」である。新人作家に対し、このような注文をつけるのは、『きことわ』と『苦役列車』が質の高い作品だとわたしが認めているからである。」

山田詠美〇

「小説を書くということは、茫漠としたかたまりに、それしかない言葉を与え続けて埋め尽くすことなんだなー、と久々に思い出したような気がする。ここには作者の選び抜いた言葉だけが揚げられていて、読み手の無責任な口出しを許さない。」

 


・読了日

2017年3月29日

 


・読了媒体

きことわ(新潮文庫)

 


・感想メモ

25,6歳の作者が時間というテーマを取り扱ってひとつの達成を果たしたことにはたいへんな価値があるが、いささか退屈。永遠子という名前の通り時間というテーマは越境的にも拡大していったが、しかし迷子になってはいないか。(2017.03.29)