・形式
小説、中篇
・あらすじ
妻はそれきり11年、口を利かなかった――。
30を過ぎて結婚した男女の遠く隔たったままの歳月。ガルシア=マルケスを思わせる感覚で、日常の細部に宿る不可思議をあくまでリアルに描きだす。過ぎ去った時間の侵しがたい磐石さ。その恵み。人生とは、流れてゆく時間そのものなのだ――。小説にしかできない方法でこの世界をあるがままに肯定する、日本発の世界文学! 第141回芥川賞受賞作。
・初出
新潮、2009年6月号
・受賞歴、ランキング
第141回芥川龍之介賞(文藝春秋、2009年9月号)
池澤夏樹〇
「普通、小説の主人公は世界に向かって働きかけるものだが、『終の住処』では世界の方が彼の前でパフォーマンスを繰り広げる。」
石原慎太郎×
「結婚という人間の人生のある意味での虚構の空しさとアンニュイを描いているのだろうが的が定まらぬ印象を否めない。」
小川洋子〇
「あらゆる出来事は、まるであらかじめ定められていたかのように起こるべくして起こる。人間の人格など何の役にも立たない。その当然の摂理が描かれると、こんなにも恐ろしいものなのか、と立ちすくむ思いがする。」
川上弘美◎
「自分の記憶を、もしも巻き戻して見ようとするならば、このような状態になるのかもしれないと、読んでいる間じゅう思っていました。「物語」を作りあげるという利便に与しないこの作者の書いた「物語」を、いつか読んでみたいものだと思いました。」
黒井千次〇
「流れる時間ではなく、堰止められた時間が層をなして重なっている。自分には知らされていないものを探り、手の届かぬものに向けて懸命に手を伸ばしながら時間の層を登っていく主人公の姿が、黒い影を曳いて目に残る。」
高樹のぶ子×
「主人公がどんな男かが読後の印象として薄い。何十年を語り尽くした主人公が見えない。空白なら其れもよし、空白を見せて欲しい。」
宮本輝△
「観念というよりも屁理屈に近い主人公の思考はまことに得手勝手で、鼻もちならないペダンチストここにあり、といった反発すら感じたが、磯崎氏はこれから一皮も二皮も剥ける可能性を感じさせる。」
村上龍×
「感情移入できなかった。現代を知的に象徴しているかのように見えるが、作者の意図や計算が透けて見えて、わたしはいくつかの死語となった言葉を連想しただけだった。ペダンチック、ハイブロウといった、今となってはジョークとしか思えない死語である。」
山田詠美◎
「過去が、まるでゾンビのように立ち上がり、絡まり、蠢いて、主人公を終の住処に追い詰めて行くようで恐しかった。けれど、その合間合間の太陽の描写が綺麗な息つぎになっている。大人の企みの交錯するこの作品以外に私の推すべきものはなかった。」
・読了日
初読日不明
・読了媒体
終の住処(新潮社)
・感想メモ