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世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド /村上春樹

・形式

小説、長篇

 


・あらすじ

 

・ハードボイルド・ワンダーランド


「ハードボイルド・ワンダーランド」の章は、暗号を取り扱う「計算士」として活躍する私が、自らに仕掛けられた「装置」の謎を捜し求める物語である。
半官半民の「計算士」の組織『組織(システム)』と、それに敵対する「記号士」の組織『工場(ファクトリー)』は、暗号の作成と解読の技術を交互に争っている。「計算士」である私は、暗号処理の中でも最高度の「シャフリング」(人間の潜在意識を利用した数値変換術)を使いこなせる存在である。
ある日、私は老博士の秘密の研究所に呼び出される。太った娘(博士の孫娘)の案内で「やみくろ」のいる地下を抜けて研究所に着き、博士から「シャフリング」システムを用いた仕事の依頼を受けた。アパートに戻り、帰り際に渡された贈り物を開けると、一角獣の頭骨が入っていた。私は頭骨のことを調べに行った図書館で、リファレンス係の女の子と出会う。
翌朝、太った娘から電話があり、博士が「やみくろ」に襲われたらしいと聞く。私は謎の二人組に襲われて傷を負い、部屋を徹底的に破壊される。その後、太った娘が部屋に現れ、私に「世界が終る」ことを告げる。

 


・世界の終り


「世界の終り」の章は、一角獣が生息し「壁」に囲まれた街(「世界の終り」)に入ることとなった僕が、「街」の持つ謎と「街」が生まれた理由を捜し求める物語である。
外界から隔絶され、「心」を持たないが故に安らかな日々を送る「街」の人々の中で、僕は「影」を引き剥がされるとともに、記憶のほとんどを失った。図書館の「夢読み」として働くことになった僕の仕事は、一角獣の頭骨から古い夢を読み解くことである。一方、僕は「影」の依頼で「街」の地図を作る作業を続け、図書館の少女や発電所の管理人などとの会話の中から「街」の謎に迫っていく。

 


・収録話数

全40章

 


・初出

書き下ろし

 


・受賞歴、ランキング

第21回谷崎潤一郎賞(中央公論、1985年11月号)

 

大江健三郎〇

「村上春樹氏の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』について、やはり自分なら、ということを考えました。ここでふたつ描かれている世界を、僕ならば片方は現実臭の強いものとして、両者のちがいをくっきりさせると思います。しかし村上氏は、パステル・カラーで描いた二枚のセルロイドの絵をかさねるようにして、微妙な気分をかもしだそうとしたのだし、若い読者たちはその色あいと翳りを明瞭に見てとってもいるはずです。
冒険的な試みをきちょうめんに仕上げる、若い村上春樹氏が賞を受けられることに、すがすがしい気持ちを味わいます。シティ・ボーイの側面もあった谷崎になぞらえて、ここに新しい「陰翳礼讃」を読みとるともいいたいような気がします。」

 

丹羽文雄△

「今年の谷崎賞の候補作品を私は軽井沢で読んだ。一篇だけ感動をおぼえたのがあった。最後の選考が行われる日の四日前に、その作品がある社の今年度の文学賞に決定したという事実を知らされた。いろんな文学賞が行われている状態では、そういうことは十分ありうることであった。谷崎賞の最後の選考会で、その作品を候補作品から外すということがきまった。今年は谷崎賞がないと私は思った。
しかし中央公論社としては、当選作品のないことは、いろいろと不都合もあろうとは、十分に想像された。多少でも好意をもった作品をむりに推薦するということも考えたが、やはり強く主張するわけにはいかなかった。」

 

丸谷才一◎

「村上春樹氏の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、優雅な抒情的世界を長篇小説といふ形でほぼ破綻なく構築してゐるのが手柄である。われわれの小説がリアリズムから脱出しなければならないことは、多くの作家が感じてゐることだが、リアリズムばなれは得てしてデタラメになりがちだつた。しかし村上氏はリアリズムを捨てながら論理的に書く。独特の清新な風情はそこから生じるのである。
この甘美な憂愁の底には、まことにふてぶてしい、現実に対する態度があるだらう。この作家は、世界からきちんと距離を置くことで、かへつて世界を創造する。彼は逃避が一つの果敢な冒険であることを、はにかみながら演じて見せる。無としてのメッセージの伝達者であるふりをして、しかし生きることを探求すると言つてもよからう。
村上氏の受賞を喜ぶ。」

 

吉行淳之介△

「『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹)についていえば、これも手応え十分であった。ただ、読む者が受信しようとしていると、村上放送は多種類の電波を同時に送って寄越すことがあって、そのため電波同士が妨害し合いしばしば受信不能になるという欠点がある。
交互に置かれた二つの話のそれぞれの主人公「私」と「僕」が、やがて交叉しはじめ、「私」イコール「僕」と分り、二つの世界の物語は同時進行して、最後に「私」も「僕」も消えてしまう、という構成は面白い。ただ、この二つの世界は、描かれている文体は違うが味わいは似通っている。そのためか、作品が必要以上の長さに感じられた。この作品の受賞に、私はやや消極的であった。」

 


・読了日

上巻

2012年1月22日

2016年9月19日

下巻

2012年1月29日

2016年9月19日

 


・読了媒体

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)(下)(新潮文庫)

 


・感想メモ

本作が村上春樹の最高傑作だという感想は変わらず(2017.10.02)