・形式


小説、中篇


 


 


・あらすじ


 27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。


 


 


・収録話数


全11章


 


 


・初出


新潮、2005年4月号


 


 


・刊行情報


土の中の子供(新潮社)


2005年7月


 


土の中の子供(新潮文庫)


2008年1月1日


 


 


・受賞歴、ランキング


第133回芥川龍之介賞(文藝春秋、2005年9月号)


 


池澤夏樹△


「前二作に比して小説としての体裁がずっとよくなったとは思った。ただ、この作も骨格は要するに自問自答なのだ。対話があるとすれば相手は過去の自分であり、その周辺にエピソードが並べられるという構図で、ここには真の他者がいない。」


 


 石原慎太郎△


「以前の二つの候補作のように象徴的でありながら現実的な物体を媒体としての暴力への傾斜という仕組みの方が、むしろ自然な物語として読めたと思う。背景に主人公の幼い頃からの被虐待という経験がもたらしたトラウマが在る、ということになると話がいかにもわかり過ぎて作品が薄くなることは否めない。観念としてではなしに、何か直裁なメタファを設定することでこの作者には将来、人間の暗部を探る独自の作品の造形が可能だと期待している。」


 


河野多恵子○


「今回の候補作でも暴力を、今度はネガティブの象で書いているが、非常に難しいことではあるにしても、人間の内部に確実に触れるには到っていない。とはいえ、物や小生物などを落下させるくだり、さらに自分を落下させた場合も想像の表現は、尋常ならぬ見事なものだ。」


 


黒井千次◎


「〈この先にある〉何か、を懸命に追い求める男の意識が執拗に辿られている。ここに見られるのは原因と結果との単なる対応ではなく、より意志的な、過去の確認と現在の模索の営為ではなかろうか。それが仄かな明るみを生み出して作品が結ばれるところに共感する。」


 


高樹のぶ子○


「地表があちこちで動いているとき、深い岩盤にまで人間探求の杭を打ち込もうとする試みは、その重さと不自由さゆえ反時代的に見える。しかしそのような小説はちょっと前にも、その昔にも、さらにその昔にもあった。ならばこの先にもあり得るはずだ。」


 


宮本輝△


「前作、前々作と比して語彙のひろがりを感じたが、幼児期に養父母によってひどい虐待を受けつづけた過去を持つ青年の内面に筆が届いているとは思えなかった。」


 


村上龍×


「虐待を受けた人の現実をリアルに描くのは簡単ではない。他人には理解しがたいものであり、本人も理解できていない場合も多い。『土の中の子供』は、そういう文学的な「畏れ」と「困難さ」を無視して書かれている。」


 


山田詠美△


「不感症の原因が死産。いかにも若い男子が考えそうなことですな。でも、小説を構築しようとしている作品はこれだけ。」


 



・読了日


2017年3月28日


2017年6月21日


 


 


・読了媒体


土の中の子供(新潮文庫)


六刷


 


 


・感想メモ


銃、遮光、悪意の手記ときてようやく主人公は恢復したのだろうか?とにかく女性との関係が進展し得ることは間違いなく、それは作者にとって画期的なことだろうと思う。(2017.06.21)


 


社会で上手く生きていくことができていないような人々の息苦しさと生きづらさ、不満、怒りのようなもの、それは社会の中で外見的には楽しく生きているような人たちへの反撥とも表裏一体のようで、冒頭の不良たちに向かっていきあっさりと殴り倒されてしまうシーンなどまさにそうだ、とにかく作品内の一貫したテーマともなっている。


 


暴力を振るわれる側、壁と卵で言えば卵の側の人たちがもがいていくさまを描こうとした小説。これは大きく理解と共感に左右されてしまう小説であるといえ、読みやすく共感できる小説が求められてしまう昨今珍しいタイプの小説であり、そのために両極端な評価にさらされてしまいそうで、登場人物の名前が白湯子という妙な名をつけられていることなど読者に読みが委ねられている部分を無視してしまっていないか慎重になりたい。(2017.08.26)