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『風の歌を聴け』の作中の時間経過についての覚書

2009/3/11 元記事作成

2015/9/19 加筆修正し公開

2017/8/23再公開

1909   デレク・ハートフィールドが生まれる。(156p
1930   ハートフィールドの5つ目の短編が「ウェアード・テールズ」に売れる。
1931   デレク・ハートフィールドが月間7万語ずつ原稿を書く。(156p
1932   デレク・ハートフィールドが月間10万語ずつ原稿を書く。(156p
1935   デレク・ハートフィールドが月間15万語ずつ原稿を書く。(156p
1936   デレク・ハートフィールドが「気分が良くて何が悪い?」を執筆。(10p)
1937   デレク・ハートフィールドが「虹のまわりを一周半」を執筆。(122p)
1938   デレク・ハートフィールドの母親が死亡(157p)
1938/6  デレク・ハートフィールドが飛び降り自殺。(9p)
1945/8/17 <僕>の叔父の1人が上海の郊外で死去(10p)
1948/12/24<僕>が生まれる(154p)
1963   <僕>がものさしを片手に恐る恐るまわりを眺め始める(11p)
1963   <僕>が初めて女の子とデートする。(94p)
1963 春 <僕>は三ヶ月かけてしゃべりまくる。(32p)
1963/7  <僕>が40度の熱を出し、三日学校を休み、平凡な少年になる。(32p)   
1963/8  <僕>が持っている唯一の「三番目に寝た女の子」の写真が撮影。(100p)
1963 夏 <僕>がハートフィールドの最初の一冊を手に入れる。(10p)
1964   この年以降、ジェイ<僕>の街に留まる。(150p)
1965   「小指のない女の子」の父親が脳腫瘍で死去。(80p)
1966   <僕>に本を渡した叔父が腸癌で死去。(10p)
     <僕>が高校のクラスメートと寝る。(74p)
1967   <僕>と<鼠>が大学に入学。(18p)
1967 春 <僕>と<鼠>が初めて出会う。(18p)
1968   <僕>の兄、アメリカへ。(103p)
1969   <僕>が牛を解剖。(134p)
1969 夏 <鼠>が本を読んだ最後の機会だと語る(23p)
1969/10  <僕>が最後に嘘をついたときと語る(131p)

1970年、夏。(作中の世界)
   
1970 冬 <僕>が街に帰る。(154p) 
1976/12/24<鼠>が<僕>に「カラマーゾフの兄弟を下敷きにしたコミックバンド」の小説を送る。(154p)
1977/12/24<鼠>が<僕>に「精神病院の食堂に勤めるコック」の小説を送る。(154p)
1978   語り手の<僕>の執筆時点の時間軸(11p)
 

  やはり印象的なのはわずか一文で構成された第2章である。

 

この話は1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終る。(13p)

 

 語り手が心情を語った第1章と本編が始まる第3章の間に置かれた第2章はこの小説の時間構成のおかしさをしっかりと示している。カレンダーで確認してみると、1970年の8月8日は土曜日である。つまりこの日というのは、DJが<僕>宛のリクエストを読んだ日(52p、57p)で、その三日後の8/11には<僕>宛にTシャツが送られる(62p)、そしてその翌日である8/12に、<僕>は、「小指のない女の子」と再会し、レコードを購入する。(64p)

 そして<僕>はジェイズ・バーで<鼠>にレコードをプレゼントする。日付の記述がないが、購入した12日当日に渡したとしても、参考になるのが次の台詞である。

「みんな寂しがってたわ。一週間も来ないのは体の具合が悪いんじゃないかってね。」(72p)
 この時点で、作中は20日(19日?)になっているはずだが。翌日(21日)、<僕>と「小指のない女の子」との食事の際に(85p)そこで彼女の言ったことには、

明日から旅行するの」
「何処に?」
「決めてないわ。静かで涼しいところに行くつもりよ。一週間ほどね」(94p)

 とあり、一週間ほどで帰ってきた後の、その日のうちの会話には、

「いつ東京に帰るの?」
「来週だね。テストがあるんだ。」(136p)

とある。

 <僕>が帰るのは8月26日で(150p)、カレンダーを見ると8月26日の前の週は8月16日~22日であり。どう考えても、一週間ほど不足している。どの記述を信用するかで日付は異なるが、元記事を作成した時間では作中の確定日を以下のように記載した。
 

1970/8/5 ジェイズ・バーの洗面所で寝転がっている「小指のない女の子」と出会う。
1970/8/6 <僕>、「小指のない女の子」の家で目覚め、女の子とやりとりする。(32p)
1970/8/8 「風の歌を聴け」の始まり(13p)
     DJ、<僕>宛のリクエストを読む。(57p)
1970/8/11 <僕>宛にTシャツが送られてくる。(62p)
1970/8/12 <僕>、「小指のない女の子」と再会し、レコードを買う。(64p)
この間に、<僕>、レコードを<鼠>にプレゼントする。(68p)
1970/8/22 DJが入院しているリスナーからの手紙を紹介する。(146p)
1970/8/26 「風の歌を聴け」の終わり(13p)
     <僕>が帰京する。ジェイズ・バーに顔を出す。(150p)


 小説を極めて厳密に書いている村上春樹がこの程度のことを勘違いしたとは思えないし、なによりこれだけ年月について言及している小説で日付けのミスがあるのは致命的である。小説を書き終わった後に日付のずれに気が付いたとしても、第2章の日付を直せは良いだけの話であるので、この日付のずれは作者の意図的なものだとして、研究解釈の一材料になっている。


・参考